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コリアンタウン・新大久保を愛する八田靖史さんと香穂さん 伝統料理から「映える」最新グルメまで語り尽くす!

文:永井美帆、写真:北原千恵美

まずはタットリタンをどうぞ

――もともとお二人はお知り合いだったそうですね。

八田 香穂さんの『新大久保で会いましょう』を読んで、僕からSNSでメッセージを送ったのが最初ですね。2019年9月ごろかな。

香穂 私は18年にテレビ番組「マツコの知らない世界」に八田さんが出演して、新大久保グルメを紹介しているのを見ていました。「こんなすごい人がいるんだ」と思っていたので、まさかご本人からメッセージが来るなんて。それから何度か食事会などでご一緒しましたよね。

――この「チャムナム家」は、八田さんが昔から通うお店だと聞きました。

八田 韓国留学から帰ってきて、01年に新大久保の韓国料理店でアルバイトを始めたんです。ヨン様に代表される第1次韓流ブームが03年ごろからですから、まだその前ですね。韓国関連のお店もずっと少なくて、歌舞伎町のすぐ裏だし、今みたいに女性が来るような街ではありませんでした。

香穂 今じゃJK(女子高生)が当たり前に歩いていますからね。

八田 そのころ、韓国人の友人たちと来ていたのがこの「チャムナム家」です。お店を開いたお母さん、ユン・ヨンエさんは今、韓国・全羅南道で暮らしていて、『韓国かあさんの味とレシピ』にも登場してもらっています。05年からは親戚のお母さんがお店を引き継ぎ、創業時からの名物、タットリタン(鶏肉と野菜の鍋料理)の味も守っています。香穂さん、ぜひ召し上がってください。エゴマの粉がたっぷり入っているので、コクがあって、おいしいですよ。

チャムナム家の「ダットリタン」(3300円)

香穂 エゴマは韓国料理に欠かせない食材ですよね。近くに住んでいるので、よく新大久保のスーパーで買い物をするんですが、日本ではあまり見ない食材が並んでいて、おもしろいです。6月ごろになると、袋に詰められた青梅が売られていて、「韓国でも梅酒を作るんだ」って思っていたんですけど、八田さんの本を読んで分かりました。砂糖漬けにして、梅エキスを作るんですね。

八田 韓国ではどの家庭でも作るそうです。料理の甘みは全部この梅エキスで付けて、日本で言うところのミリンみたいなものでしょうか。

かつての特権階級の暮らしを伝える御前

――ほかにも、香穂さんが八田さんの本の中で気になった料理はありますか?

香穂 一番印象に残っているのは、慶州市の築500年の伝統家屋に暮らすお母さんが作る御膳ですね。韓国料理って、大皿料理をみんなで分け合って食べるイメージがあったんですが、チャプチェ(春雨の炒め物)やお刺し身など、いろんな料理が小皿に盛られていて、まるで時代劇の世界ですね。

『韓国かあさんの味とレシピ』(誠文堂新光社)より (佐藤憲一撮影)

八田 家庭料理の域を超えていますよね。この家庭は特別で、両班(ヤンバン)という朝鮮時代に特権階級だった方の一族が、伝統的な暮らしを大切に守っています。この御膳にも「両班の暮らしはどういうものなのか」というエッセンスが詰め込まれているんです。例えば、一般的なチャプチェは春雨を使いますよね。でも、このお母さんはドングリを煮固めた寒天を細かく切って、チェプチェを作ります。

香穂 随分手が込んでいますね。どうして寒天なんですか?

八田 お母さんに聞いたら、「春雨だと、箸でとる時にビローンと引っ張り上げる姿が美しくないでしょう」と。タコのお刺し身についても語っていいですか? タコには墨袋があるので、昔から文筆をもって国政を担う儒学者たちに愛されてきたそうです。だから、タコのことを韓国語では「文魚」と書き、「ムノ」と呼びます。一つひとつの料理にきちんと哲学があり、そんな話をテキパキと料理を作りながら、教えてくれるんです。両班の一族は商業的な活動をあまり好まないのですが、この時は僕らが外国のメディアだから、「伝統文化を伝えて欲しい」と承諾してくれました。

――八田さんの本を読んで、韓国の人がいかに食事を大切しているかが伝わりました。

八田 韓国人は家族や親しい人に会うと、あいさつのように「パプ モゴッソヨ?(ご飯は食べましたか?)」と尋ねます。これは満足に食べられなかった時代の名残だと言われています。今の50代、60代の人でも飢えを知っていますからね。さらに、両班のお母さんも「日々の食事は薬である」と言っていましたが、韓国では医食同源という考えが根付いています。こうした背景から、食に対して積極的なのだと思います。

香穂 私は最近の韓国や新大久保しか知らないので、八田さんの本を通じて伝統的な食文化を感じることが出来ました。

新大久保には「イケメン」も「萌え」もある

――八田さんは香穂さんの漫画を読んで、いかがでしたか。

八田 実際にある新大久保のお店が登場するんですけど、イラストがまた食欲をそそるんですよね。特に2巻に出てくる「辰家(ヂンガ)」のポッサムは最高でした。ゆでた豚肉を白菜などで包んで食べる料理なんですが、漫画ではイケメンが「あーん」と食べさせてくれるんです。背景にはバラの花。僕は長いこと新大久保を見てきましたが、「そうか、新大久保はこういう街だったのか!」と新鮮に映りました。新大久保には「イケメン」や「萌(も)え」という側面もあるんですね。

「新大久保で会いましょう」より ©香穂/講談社

香穂 漫画では私の妄想が爆発しています(笑)。

八田 16年ごろからBTSやTWICEなどのK-POPが再び人気を集め、第3次韓流ブームが始まり、SNSを駆使してリアルタイムで韓国の流行を追う10代、20代の若い子たちが一気に新大久保にやって来ました。そういった子たちに新大久保がどのように見えているのか、香穂さんの漫画を通じて分かった気がします。

香穂 連載中は多い時で1日2回、新大久保に通っていたので、私の実体験も混じっています。ホットク(韓国風おやき)を食べていたら、男の子か女の子か分からないけど、モデルさんみたいなきれいな子に話しかけられたり、学校になじめず、1人で新大久保に遊び来ていた高校生と出会って、一緒にライブを見たり。新大久保の雰囲気って独特ですよね。だって、街中にハングルがあふれ、道を歩けばK-POPが聞こえてくるんですよ。韓国ではやっている食べ物やグッズも、少し待てば新大久保で手に入ります。

新大久保の親善大使になりたい

八田 僕は香穂さんのTwitterを見て、最近、新大久保でタマゴサンドがはやっていることを知りました。

香穂 スクランブルエッグやチーズなどのいろんな具材を挟んだパンが、小さなカップに入っているんです。インスタ映えするし、食べ歩きできるし、若い子たちが並んでいるのをよく見ます。ほかには、タンフルっていうフルーツあめも人気です。イチゴなどのフルーツが串に刺さっていて、その周りがあめでコーティングされているんです。これもインスタ映えですね。

――これまで2千軒以上の韓国料理を食べ歩いてきた八田さんから見て、最近の新大久保グルメはいかがですか。

八田 チーズハットグ(韓国風ホットドッグ)もそうですし、最近の流行は屋台フードが中心になっていますね。

香穂 最近、JKの友人が屋台フードに飽きて、「伝統的な韓国料理が食べたい」と言っています。私の漫画にも出てくる「辰家」を教えてあげたら、実際に行ったみたいで、写真を送ってくれました。

八田 「辰家」は1995年から店を構える、新大久保でも5本の指に入る老舗ですよ。若い子たちが流行グルメから入り、「本物の味が知りたい」って、いい流れじゃないですか。新大久保の未来は明るい!

チャムナム家の「海鮮チヂミ」(1320円)

――お二人の今後の目標を教えてください。

香穂 いつだったか「新大久保の親善大使になりたい」と言っていたこともありますが、こんなおもしろい街はないと思っています。私の漫画を通じて、一人でも多くの人が新大久保に興味を持ち、遊びに来てくれたらうれしいですね。次回作も新大久保を舞台にした作品になる予定です。新大久保で活動するK-POPアイドルを主人公に、またたくさんの韓国グルメを紹介したいと思っています。

八田 今回は韓国の家庭料理をテーマにした本でしたが、次は地方料理の魅力を伝えたいですね。第1次韓流ブームでヨン様から韓国に興味を持った人たちは、もう15年も韓国を見続けているんです。スペシャリストだと言えるんじゃないですか。そんな人たちにも届くよう、家庭料理や地方料理など、より深い韓国料理の情報を発信していきたいです。