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フルポン村上の俳句修行 病院ごっこに監禁…BL俳句にひたすら戸惑い

文:加藤千絵、写真:松嶋愛

>みなさんから俳句を募集します。俳人の坊城俊樹さんも選者に! 詳しくはこちら

 「そもそも私が東京から離れるんで、この句会はもう終わるんです。だから“暫定”なんです」。そううそぶくのは、その名も「暫定句会」を主宰する上野葉月さん。フランスを中心に長年海外で働いていて、東京五輪の開催までにまた日本を出るつもりだったと言いますが、「結局オリンピックの方が去っていった」と苦笑します。

「暫定句会」主宰の上野葉月さん

 タクシー運転手をしつつ、短編映画を撮ったり執筆業をしたりと多才な上野さんが俳句に出会ったのは1998年。当時働いていたシンガポールから帰国して、学生時代のバンド仲間の三島ゆかりさんに「久しぶりに飲まないか」と連絡すると、「忙しいけど、お茶の水『滝沢』に来れば会えるから」という返事があったと言います。「三島さんが俳句をやってることは知ってたので、句会を見学してその後飲みに行くんだろう、とは思っていたんですけど、いきなりその『豆の木・木曜句会』というのに参加させられて。それで3句くらいがんばって作ったんですけど、点数が全然入らなくって」。2週間後、なんとなく次の句会も出てみると、またまた0点。「6回目くらいで初めて1点入って。だから1点入るまでに3カ月以上かかったんですよね」と振り返ります。

 それから今まで俳句を続けている理由は? 「言葉に対するこだわりがみんな強いので、おもしろいとは思っています。ただ私自身は基本的にすごく散文の人間なんで、詩とか俳句みたいなものに対する感覚があんまりないんですよね。もう20年以上やってるわけなんですけれど、いまだにあんまりのめり込めないでいます。でも続くんですよ。そういう俳人もいます、世の中には」

 暫定句会は月に1回、東京・銀座で開かれます。普段は5人くらいとのことですが、この日は「村上効果というやつで」8人が集まりました。結社や同人誌に所属していたり句集を出したりしている強者から、暫定句会のみで俳句を楽しんでいる人、飲み屋で上野さんにスカウトされた人などメンバーはさまざまです。今回は「BL」をテーマに、かつ「院・雨・アル・南・筋」のいずれかの字を詠み込むという難易度の高い宿題で、村上さんを含めてみんな、「むずかしかった」と言い合っていました。

それぞれBL俳句5~10句を短冊に書いて、提出しました。作者の名前は伏せています

短冊を代表者が清書して、おのおのがいいと思った句を選んでいきます

 よしながふみさんの漫画で、2019年に西島秀俊さん、内野聖陽さん主演のドラマにもなった「きのう何食べた?」でBLを予習してきたという楠本奇蹄(きてい)さんは、「妻も子も棄てぬくちびる花の雨」と詠みました。

村上:ボーイズラブっていう前提で作るときに、主人公にこういう枷を作るっていうのがおもしろいなっていうか。男同士なのに女性と子どもを登場させるっていう、その性格の悪さですよね。
一同:(爆笑)
楠本:これ、西島さんが言ってたんですよね、「きのう何食べた?」で。

>ドラマ「きのう何食べた?」原作者・よしながふみさんインタビュー

 同じく楠本さんの「南京錠のやうなただいま鳥曇」の句評は、きわどいものに。(※鳥曇=秋冬に渡ってきた鳥たちが、春になって北方に帰る頃の曇りがちの空)

前田凪子:BLって、一派閥として「監禁もの」がある気がするんですよ。だからそういう感じかな~っていう。帰って来ちゃった、みたいな。
楠本:少年を飼育するとか、そういう話?
一同:(爆笑)
藤原暢子(ようこ):「あの鳥のように僕もここを出て行きたい」と思っているような鳥曇?
楠本:こわいな~(笑)。

 最高点の4点が入ったのは、前田凪子さんの「病院ごっこ腹裂けばヒヤシンス」でした。

山岸由佳:三段切れ句(=五七五のいずれもが切れたかたち)ですけど。ちょっとビックリですね、ヒヤシンスが。
上野:三段切れをいやがる人が多いけど、私はあんまり気にならないな。
村上:無邪気で、しかも残酷というか。これぞエロスかなって風に思いました。
楠本:「病院ごっこ」で情景が分かる、っていう意味で親切な句だなって思ったんですけど。やっぱり「腹裂けばヒヤシンス」っていう展開がとてもビックリするところで、意外性があって反射的に取りました。
中嶋憲武:超現実的な感じだよね。

 「乙女座の少年多情竹の秋(葉月)」(竹の秋=竹の古葉が春に黄ばむこと)、ダッチワイフ?と話題をさらった「南極と呼ばれし娘卒業す(憲武)」、「少年の描く少年花の雨(佐藤午後)」、「罰すれば修道院に降る辛夷(暢子)」、「少年の喉の痒みへ散る桜(由佳)」「少年の背中合はせに春の雨(藤本る衣)」など秀句がそろう中、村上さんの句はなかなか選ばれません。

 結局この日は「クレソンのはみ出る口や雨男」に2点、「アルデンテ確かめる指風光る」に1点のみ、という結果に。最後に「村上さんの句を全部開けてほしい!」という声も上がりましたが、「もういいです、取られてないんで・・・・・・」とガックリした様子でした。

なので、ここで村上さんの句を開けます

・院長の謝罪会見蜆汁
 だいぶ自分の中では飛躍してるんですけど、院長と関係のある男の子が、そのスキャンダルについて院長が謝ってる会見を、蜆汁を飲みながらふつうに見てるっていう。

・南北に伸びる手春の地球照(ちきゅうしょう)
 僕も意味が分かってないです(笑)。南(の字題)だけ全然出てこなくて。月が光ってなくて黒いところあるじゃないですか、あそこがくっきりすることを地球照っていうんですけど、その光ってない方がBLっぽいって勝手にもう想像して。ほんとに「南」が出なすぎて。これに関しては本当に分からないですけど、ただ少年とかを好きだけどかなわない恋だと思えば、南北という広いところまで手を伸ばせると思うのかなって・・・・・・。

・腹筋を鍛える息や春の闇
 「筋」の字が題になってたので、まんまかなって・・・・・・。

句会を終えてのコメント

 みなさんが作ってる俳句に関してはすごくおもしろかったんですけど、僕がBLに詳しくないから、自分で作ろうすると何をしてもウソくさい、そもそも誰かが作ってる作品の影響を受けたものしか作れない気がしちゃうんですよね。マンガとか小説のパロディーじゃん、っていう。

 「尻子玉句会」の河童の時はそうは思わなかったんですよ。「もしも河童がいたら」って想像して入っていけたんですけど、これに関しては世界観に全然入っていけなかったんですよ・・・・・・。あと入れなきゃいけない言葉がすごいむずかしくて、それでまず苦労しちゃって。今回はパニックでした。毎月、句会ごとにそれぞれ違うので戸惑ったり、おもしろがったりしながらやってきたんですが、ちょっと戸惑う方でしたね。

【来月に続きます!】