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#47 マチュピチュ妄想探検記 ペルー

一生に一度は見たい、マチュピチュの絶景

 新型コロナウイルスが世界的に感染拡大している。日本国内で5000人以上の感染が確認され、首都圏などで緊急事態宣言が出された。いまは自分にできる対策を徹底して、これ以上感染が広がらないよう、何とか事態が収束に向かっていくよう、ただひたすらに願いながら、現状を注視するばかりだ。

 当面の間、世界を旅することは難しそうなので、こういう時にこそ、「本で旅をしよう」と思い立つ。最近だと、マーク・アダムス著、森夏樹訳の『マチュピチュ探検記 天空都市の謎を解く』(青土社)を読んだ。

 標高2400メートルのアンデスの山中にある、インカの都市・マチュピチュは、1911年、イェール大学の教師ハイラム・ビンガムによって発見された。しかし、発見100周年が近づいた2008年、1956年に生涯を終えたビンガムはふたたびニュースの表舞台に呼び戻される。きっかけは、アマチュア研究家が、米国議会図書館で19世紀に作られた1枚の地図を見つけたという記事だ。その地図には、マチュピチュ近辺と思しい土地が描かれていた。つまり、ビンガムより前にマチュピチュへ行った人がいるということでーー。

 筆者のアダムスは、マチュピチュ発見の真相を突き止めるため、ビンガムの探検日誌を読み漁り、ビンガムが歩いた跡を自分自身も歩こうと、旅に出る。この本は、その旅の記録を中心に描きつつ、ビンガムの生涯やインカ帝国の興亡史といったエピソードをも丁寧に盛り込んでいる。400ページを超える大作だが、緻密で具体的な描写ゆえ、難なく読み進められるし、いろいろと発見や驚きがあって面白い。

こんな時だからこそ、本で旅をする

「もうマチュピチュのような遺跡は見つからない、おそらく。しかし、遺跡はまだ“たくさん”埋もれている。1572年6月24日まで、この都市には人があふれていたんだ。それがスペイン人たちがやってきたときには誰一人いなくなっていたーー都市は燃えていた。(略)。彼らはインカの財宝を“今もなお”守り続けているにちがいない。それを忘れていなければの話だがね」(233ページ)
マチュピチュをはじめて訪れた人は誰でもそうだが、ビンガムもしばしの間、世界でもっともすばらしい自然環境に浸り切っていた。(257ページ)

 この本を読み進めながら、大学生の頃に友人と訪れたマチュピチュを思い出す。「一生に一度は見たい風景」が目の前に広がっていた、その興奮と感動がほんのりと蘇る。マチュピチュを見下ろせるワイナピチュの登山が想像以上にきつかったこと、リャマやアルパカがかわいかったこと(夕食でアルパカを食べたこともあったな)、麓の街で温泉に入ったこと。ビンガムやアダムスたちの旅に比べれば、相当に「ゆるい」旅だったかもしれないけれど、今となっては、そんなささやかな記憶さえも愛おしい。

 こういう「非常時」につくづく思う。当たり前のように旅ができた日々の尊さを。そして、自由で気ままな旅をするためには、その前提に「平和」があったのだということを。また再び旅ができますように。そう思いながら、いまはただ、本のページをめくるとしよう。