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「ポロック生命体」書評 故人の新作をAIが発表する日

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月18日
ポロック生命体 著者:瀬名秀明 出版社:新潮社 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784104778027
発売⽇: 2020/02/27
サイズ: 20cm/231p

ポロック生命体 [著]瀬名秀明

 人工知能(AI)は将棋で人間に勝てるか、小説を書けるか、東大入試に合格できるか、夢を見るか。
 キャッチーなフレーズの数々が、AIの可能性を社会に浸透させるとともに、人々に得体のしれない不安感を抱かせている。
 本書は、陳腐化したこれらのフレーズを超え、AIと共生する社会で葛藤する人々を描く4編からなる。
 潔く投了できる将棋AIの美意識を問うた「負ける」。それに続く「144C」は、「小説の本質が〝人間を描く〟ことだとして、機械は人間を描けると思う?」と畳み込む。
 「きみに読む物語」は、人間がAIを評価するのではなく、AIに評価され支配される時代を問う。
 「本を読んで感動するのはなぜか。その謎を解き明かしたい」と語る文学部学生の多岐川に驚く理学部の優子。「それができなかったら、文学部じゃないさ」と答えた多岐川は、やがて小説と読者のSQ(共感指数)レベルの一致度が本の売り上げを決めることを発見する。人類の大多数がSQレベル3である以上、4・5の小説を書いても無意味。売れるのはレベル3に調整されたAI小説だ。
 これら3編の問いかけを昇華させたのが最後の表題作「ポロック生命体」。
 米国の抽象画家の名を冠した《ポロック》社は、故人となった画家と小説家の作品をAIで解析し尽くし、彼らの新作を発表する。
 「巨人の肩に乗って」新たな発見を行う科学者が独創的であるのと同じく、過去の偉大な芸術家たちの作風をマスターしたAIは単なる模倣にとどまらない。彼らの全盛期を超越した新作を創造し続けるだろう。
 人間には不可能なこの芸術の発展法は、AIが過去の芸術家に新たな命を吹き込んだと表現すべきだ。
 AIに限界はあるかどころではなく、AIは果たして死ぬのかとの観点から、AIと人類の共生が不可避な社会の姿を模索すべき時代が目の前にある。
    ◇
せな・ひであき 1968年生まれ。作家。『パラサイト・イヴ』、日本SF大賞の『BRAIN VALLEY』など。