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BLラバーの書店員も思わずほっこり♡ 「子はかすがい⁉︎子育て・子連れBL」

大切な人たちと“食卓を囲む”という幸せ(井上將利)

 「かすがい」という言葉、皆さんは知っていますか? お恥ずかしい話ですが僕は知らなくて、このコラムの編集さんから「子はかすがい⁉︎〜」のテーマを頂いてから焦って調べました……。

 「かすがい」とは大工さんが使う釘の一種で木材を繋ぐもので、それが由来して「人と人を繋ぐもの」という意味で使われるようになった言葉だそう(なるほど!)。
ということは今回、僕が選んだ三田織さんの「僕らの食卓」(幻冬舎コミックス)はまさにピッタリな作品!

 幼い頃に両親を亡くし親戚の家で育った豊は、血の繋がらない姉弟たちとの食卓がきっかけで他人と食事をするのが苦手になってしまった会社員。昼食はいつも一人、公園で自前のおにぎりを食べる日々を過ごしていました。ところがある日、偶然出会い、おにぎりを分けてあげた4歳の子ども・種(たね)とその兄・穣(みのる)に「おにぎりの作り方を教えて欲しい」と言われ、何故か兄弟の家に行くことに⁉️

 穣と種も数年前に母親を亡くし、以来父親と3人暮らし。穣は年の離れた弟の面倒をみることに忙しい毎日を過ごしていて……。これは、そんな兄弟と豊の3人が作っていく温かい食卓の物語です。

 作中では“一緒に食卓を囲む”という出来事が重要な要素として描かれていて、キャラクターの心情が変化する場面では必ず登場するのが見どころのひとつ。

 食事を重ねることで孤独だった豊の生活は大きく変わり、兄弟と過ごす時間が楽しみへと変わっていきます。同時に穣にとっても、種の親代わりとして日々頑張る自分を癒すような時間になっていったのかなと思います。そして何より『みんなでつくると みんなでたべると おいしいねぇ』という種の言葉がとても的確で、当たり前だけど何だか涙が出そうになります。

「僕らの食卓」より ©三田織/幻冬舎コミックス

 そして「子はかすがい」とはまさに種のことで、「豊に会いたい!」という種の無邪気で汚れない存在が豊と兄弟を繋ぎ合わせる存在に(ホントに可愛いんですわ)。

 最初は種を理由に一緒に過ごす豊と穣でしたが、次第にお互いと過ごす時間が心地よくなって行き、気持ちにも変化が。しかし豊は自分の抱く感情が、初めて手に入れた幸せな食卓、大切な時間を終わらせてしまうのではと考えるのでした。手に入れたと同時に失う恐怖を感じ葛藤する豊、そんな彼の背中を押したのは……読んでのお楽しみです♪

 三田織さんのあとがきにも描かれていますが、楽しそうな3人の食卓を覗き見てるような幸せな気持ちになれる作品です。近頃は家で過ごすことが多くなっていますが、だからこそ“家の食卓”という存在の大切さを改めて実感できるはず。

「家族」ってなに? 家族に翻弄されてきた2人が築く新しい家族の形 (キヅイタラ・フダンシー)

 今回のテーマは「子はかすがい⁉︎子育て・子連れBL」です。2人でいちゃいちゃしてるBLももちろんいいですけど、子育てというエッセンスが加わることで出てくる“お父さん感”、いいですよね~(爆)。オススメさせていただく作品はこちら♪

 りーるーさん「ひらひら満ちる」(新書館)

 冒頭から男2人、育児に奮闘している慧と芳彦。実はこの2人は出会ってまだ1カ月なのです。疎遠だった妹が交通事故で亡くなったという知らせを聞いて駆け付けた慧の前に現れたのが、妹の交際相手だった男の弟・芳彦。未婚だったカップルの間には奇跡的に事故から助かった子どもがいて、それが天(そら)でした。交通事故の原因を作った兄の責任を感じた芳彦は、天の育児を手伝うことに。

 1カ月を過ごす間に、慧は芳彦が自分にどんな感情を抱いているのか、薄々勘づいていました。この関係を壊したくないと思いながら、子どもの世話がうまい芳彦に頼るうちに、慧にも特別な気持ちが生まれます。晴れて恋人になった2人でしたが、順風満帆というわけではありません。芳彦の過去やそれに関係した問題が浮上したり、家庭の難しい悩みを持つ生徒の面倒をみたり、慧も彼自身の人との向き合い方を見つめなおしていったり……。すれ違いも増えていく2人の関係はどうなっていくのか――。

「ひらひら満ちる」より ©りーるー/新書館

 作品を通して描かれるのは、「家族」ってなんなのか、ということです。親は男と女であること? 血がつながっていること? 思い悩みながらも少しずつ成長していく2人の姿を見て、読んでいる側もいろいろと考えさせられる、深いお話です。健気で努力家な芳彦が疲弊していく姿に心が痛みながらも応援しまくっていました。

 そして、本作の天使・天くんがとっても愛らしい(笑)。すごく天真爛漫で、生き物も食べ物も、なんでも「まんまん」って呼んじゃうところとか、水族館でめちゃめちゃ感動しているところとか、かわいいー!って思っちゃいます。初めてスプーンでご飯を食べられるようになった天くんの動画を2人で眺めるシーンとか、もーほっこりしました。3人のあったかい家庭をもっと見ていたい! 個人的には最終話の扉絵の3人がすごく好きです。

 家族の死から始まった2人が築いていく新しい家族の形。単巻ですが、読み終わって心に残る作品、おすすめです!