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「くらしのきほん」松浦弥太郎さん 目標とビジョンを持ち、待つことも大事。『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』

文:神田桂一 写真:斉藤順子

好奇心が続く限り、歩みを止めない

――松浦さんは、古書の販売、文筆、編集、さらに経営など、いろいろと挑戦し続けていますが、誰かロールモデルはいるんですか?

 常にいろいろなものに興味を持つので、そういうものから影響を受けていないかと言われると嘘にはなりますが、何かチャレンジする時、意識的に誰かを思い浮かべたりすることはないかなあ。それよりも僕らは、日々いろいろな情報を処理しながら生きているから、何か新しいことを始める時には、意識的に情報処理の精度を高める努力をしています。

――それは一体どういうことでしょう?

 僕の中で情報は、大きく3つにわけられると思っています。1つ目は「一次情報」です。すでに公表されている嘘のない情報で、誰かの主観が入っていないエビデンス的なデータです。2つ目は、新聞やテレビといったメディアが出す「誰かの一次情報を分析・解説して発信する情報」です。その1つ目と2つ目の差を、自分なりに確かめながら発信する「自分の主観」が3つ目です。この3つの情報処理をしていくことで、自分の中へ情報をインプットし、アウトプットして言語化していくのです。

 例えば、僕が新しく魚屋さんを始めるとしたら、魚屋さんの業界や数字的なものを全部調べますよね。それについて、分析したり、解説したり、発信している媒体を全部見ますよね。その中で、何が本当か確かめたことを集めていきますよね。この精度を意識的に高めるんです。つまり、詳しくなるってことです。

 チャレンジすることは、常に不安や恐怖が付きまとうんですけど、ある程度詳しく学べば、そういう不安や恐怖はなくなります。「ああ、そういうことか」と全容がわかりますから。その方法を自分なりに確立していけばいいんじゃないですかね。

――「この先どうしたらいいか?」という不安はありますか?

 当然ありますよね。今でもあります。不安や悩みは一生続くというか……そこから逃れられることはないですよね。

――その不安をどうやって乗り越えていますか?

 好奇心が続く限りは、歩みを止めないことですかね。自分なりの目標や願望みたいなものを確かめるために、いろいろな経験をして何かを所有することで目標や願望を確かめられるわけです。確かめてみたら、自分が期待してたものとは違うなんてことはたくさんあるんだけど、全てはその連続ですよね。要するに、旅みたいなもので、未知の世界へ行くわけですよ。

 例えば、アメリカのニューヨークに行けば、楽しいことがあるだろうと期待しながら苦労して向かうけど、行ったら行ったで、汚い街だし犯罪も多くて住む場所なんてない!ってがっかりすることだってあるかもしれない。そこで、前向きな気持ちがあれば、次の新しいところを探しに行くことができるわけですよね。

 やっぱり意味があると思うのは、自分で確かめることです。誰かのレビューを読んで「あれはこういうもんだから「自分はやらないよ」って決めるんじゃなくて、ひとつひとつ確かめた人がいちばん価値のあるものを貯めていけるって信じてます。常に絶望や虚無感はつきまとうけど、だからといって好奇心が続く限りは、自分が足を止めることはないですね。

“待つこと”ができないと磐石な基盤ができない

――今作の前書きに、「ビジネスをやっていく上で“待つこと”が必要だ」と書いています。とかくスピード重視の現代ですが、その真意は何ですか?

 人が待たなくてもいいサービスやツールが出てきて、全体的に便利になりましたが、本来は、物事を生み出すにしても気付くにしても育てるにしても、それ相応の必要な時間があると思っています。今の世の中では、その必要な時間が忘れられてしまって、待てない世の中になっている気がします。

 例えば、信号待ちしてても、みんな信号すら待てずにスマホ見てる。建物を早く造るにしたって、病気を早く治すにしたって、体重を早く減らすにしたって、それによって弊害も出ている世の中です。自分自身の成長やビジネスに必要な時間を、僕らはもう一度待たないとならない。

――とはいえ、ビジネスは「即断即決」「スピードが大事」とよく言われます

 それは、意思決定のスピード感が必要なだけであって、ビジネスの本質である「成長」という意味では、早くていいことはあんまりないんじゃないですか。「急がば回れ」って言葉がある通り、必要な時間をかけないと、磐石なものにはならないんじゃないんですかね。ただ、「のんびりやりましょうよ」ってことでもなくて、自分が向き合っているものにかける時間がどれくらい大切かを見極める力が必要ですよね。

具体的な目標とビジョンを持ち、今を逆算する

――今作のタイトルは『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』。ズバリ、人生を豊かにするために、お金はどう育てればいいですか?

 収入をどう増やしたいのか、額と時期を明確にすることじゃないですかね。ただ増えればいいと思うだけでは願望で終わってしまうので、今の収入をいくらにしたいのか具体的な金額を決めたら、いつ頃までにそうなりたいのか時期を次に決めますよね。そうしたら、その目標から逆算していくことで、今日は何をすべきかがわかる。

 その「逆算する考え方」を持っている人は少ないですよね。欧米人やアジアの他の国の人たちは、自分と未来を軸に物事を考えるんですけど、日本人って今を大事にするんで、なかなかそういう発想がしにくいんです。これらは僕も先輩から教わったことですけど。

――とはいえ、目標を達成することは、そう簡単ではないと思いますが…

 ビジョンを持つことが必要だと思います。お金と仕事は、そのビジョンを実現させるために必要な道具や機会だったりするので、自分は何を成し遂げたいのかビジョンをしっかりと持つべきですよね。途中で見直して、「やっぱり違った方向だな」と変更していくのはありですし。そうでもしないと仕事や自分の日々が楽しくないというか、どこに向かっているのかわからなくて辛いと思いますよ。どこへ向かうのかをしっかりと明確にしておくと、協力者や理解者、友達も増えるし、世の中も好意的に思ってくれるんじゃないですかね。

――そのとき「リスクとリターンについて意識するように」とも書かれていました

 うーん、まあ言葉通りといえば言葉通りなんですけど、どんなことにもリスクがあるわけですよ。本来、リスクって自分で対処できることが条件なんだけど、僕らってわがままだから、できればリスクなしでリターンをもらいたい意識が働いてしまうわけです。でも、それは自然の摂理として無理なんですよ。何かをたくさん欲しい時は、高いリスクが必ず生じているんですよ。だけど、ローリスクでハイリターンが欲しいって求めるから、みんな苦しむわけです。

 あと、もう1つ付け加えると、リスクとリターンの仕組みはギャンブルじゃないんですよ。

――つまり、どういうことでしょうか?

 ギャンブルになると自分でマネジメントができなくなるんです。だから、リスクを負えなくなる。ローンで家を買うにしても、就職するにしても、ギャンブル的な判断になれば長続きしなくなるから不安感も出てきますよね。自分は今、感情的にギャンブルをしているのか、もしくは投資的な判断をしているのか、どちらか自覚しておかないと、全てが一か八かのギャンブルになってしまいますよね。それって非常に危険だから、できるだけ避けるようにしないとならない。

人間関係はGive And Give

――最後に、働きざかり世代へメッセージをお願いします

 今はグローバルに物事を考えられるし、グローバルで活躍できる社会じゃないですか。僕らの若い頃って、自分の意識が東京っていうすごく狭いところにしかなかったんで、発想が小さかったんですよね。でも今は、東京がベストだということなんて全くない。それだけでも発想が広がっているでしょうし、実際何でもグローバルに発信ができる。自分の顧客が世界にあることを強く意識すると、さっき言ったビジョンや夢が広がるんじゃないかなあ。そういう社会を大いに利用するべきだと思います。

 それから、感謝の気持ちを持つことですかね。仕事や暮らしって、一人でやっていけるわけではなくて、家族や友達、そして同僚といった周りの人が支えてくれるわけで、そういう人たちへの感謝や人間関係を大切にするからこそ、乗り越えられるんじゃないですかね。そういう人がいるからこそ、苦しいことも乗り越えようと前向きな気持ちになれるんだと思いますけどね。

――そういえば人間関係は「Give and Take」ではなく「Give and Give」とも書いていました

 できるだけ「感謝の気持ち」を忘れずに、自分にできることを周りの人へどうやってGiveしていけるかが大切なんじゃないですかね。人間関係は、全て経験として自分の学びになると思います。それが、本当に大変で苦しいことであっても、結果的に自分の血となり肉となると思えば、感謝の気持ちがどうしてもわきますよね。感謝の気持ちがあればどんなことでも楽しくなる。逆境や理不尽なことがあっても、そう思えるかが大事ですよね。