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「先生も大変なんです」書評 ビルド&ビルドで膨張する業務

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月25日
先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ 著者:江澤 隆輔 出版社:岩波書店 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784000613972
発売⽇: 2020/03/07
サイズ: 19cm/160p

先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ [著]江澤隆輔

 日本の学校教員の過酷な長時間労働が指摘されて久しい。その制度的な原因として、どれだけ長く残業しても手当が支給されない、いわゆる「給特法」に基づく特殊な賃金制度がある。政府が対策として導入した「一年単位の変形労働時間制」は、現状をむしろ悪化させるおそれがあることも論議を呼んでいる。
 本書でもこれらの問題はきちんと論じられている。その上で、制度的・法的な背景だけでなく、教員を働きすぎに追い込む教育現場の実態や教員自身の考え方・感じ方を詳細に描いているところに、本書の意義と魅力がある。
 たとえば、公立学校では毎年度、教員の一部が学校間を異動する。去った教員と来た教員とが顔を合わせることはなく、校務分掌(様々な委員会など)の引き継ぎが行われないまま、新入生への対応を含め日程をこなさなければならない。
 たとえば、教育委員会から指導主事が参観に来る際には、50分の授業のために多くの書類作成と準備が必要になる。
 たとえば、少子化により学校あたりの生徒数・学級数・教職員数は減っているのに、部活動の数は減らず、複数の部活の顧問をかけもちしなければならない教員も現れている。
 そして、「子どものため」を思えばこれまでやってきた行事や活動を廃止にしにくい教員心理と、膨張し続ける学習指導要領により、「スクラップ・アンド・ビルド」ならぬ「ビルド・アンド・ビルド」の形で教員の業務は増え続ける。
 こうした教員の多忙化は生徒の多忙化をも招くとともに、生徒への一律な管理も学校内で進行する……。誰も幸せにならない事態が生じているのである。
 終章では、現状を脱するためには学校像と教師観をどう転換すべきかが提言されている。
 冷静な分析と親しみやすい語り口に導かれて、学校という独特な世界の内部を覗き見させてくれる書。
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えざわ・りゅうすけ 1984年生まれ。福井県の公立学校教諭。著書に『教師の働き方を変える時短』など。