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usaoさん「なんでもない絵日記」インタビュー 自分の心の成長をただただ描いて3年

文:小沼理

毎日のできごとを、その空気ごと覚えておくために

——「なんでもない絵日記」はusaoさんが小学校の教員として働いたり、夫のK氏と生活したりする中で感じたことを綴った漫画ですが、最初に描き始めたきっかけを教えてください。

 かけられた言葉や子どもたちの表情、うれしかったこと、つらかったこと……毎日生活する中で色々なことを感じます。その一瞬一瞬を忘れたくないなと思ったことがきっかけです。その時の空気ごと忘れたくなかったので、3年ほど前から文章だけではなく絵日記を描くことにしました。

『なんでもない絵日記』(扶桑社)より

『なんでもない絵日記』(扶桑社)より

——主にTwitter上で発表されていた3年間の絵日記が『なんでもない絵日記』として一冊の本になりましたが、改めて読んでみてどう感じましたか?

 「私、悩んでいるな」って思いました(笑)。悩んでいる時のほうが描きたくなるのかもしれません。

——描くことがストレス発散になっているのかもしれないですね。でも、幸せな温かいお話もたくさんあると思いました。現在の夫であるK氏との結婚するまでのエピソードや日常、ご家族とのやさしいやりとりも漫画にされています。

 そうですね。K氏とのエピソードは良い話が多いので、彼が一番喜んでいると思います(笑)。親はこの漫画を読んでうれし泣きしていました。

『なんでもない絵日記』(扶桑社)より

——どんな時に絵日記を書くことが多いですか?

 生活の中で、「これは漫画に残しておきたいな」と思ったできごとを頭の中に残しておくようにしています。それで、仕事が終わった後や休日などの時間があるときに、自分の中にあるものを全部出すように描いていますね。

——『なんでもない絵日記』を作るにあたり、usaoさんがこだわったことがあれば教えてください。

 漫画を描くときには誰かを否定したり、自分の価値観を押しつけたりしないようにしています。教員という職業柄もあると思いますが、どんな人が読んでも嫌な思いをしないように気を付けて描いています。

悩みを抱えた友人のために生まれたキャラクター「うさお」

『usao漫画』(扶桑社)より

——『なんでもない絵日記』以外にも、うさぎのようなキャラクターの「うさお」が主人公の漫画「usao漫画」も描かれています。

 「usao漫画」をはじめて描いたのは6年近く前です。私は当時まだ学生だったのですが、悩みを抱えている友達にかけてあげられる言葉が見つからなくて。何かできることはないかなと思って、うさおが「大丈夫だよ」と言っている漫画を描いたのがきっかけです。

 うさぎのキャラクターなのは特に理由はなくて、たまたまです。他にもコアラや鳥などさまざまなキャラクターが登場しますが、それらはどれも自分の感情をキャラクターに委ねたもの。「この子はこの性格」という設定は具体的には決めていなくて、読み手の想像力に委ねています。

——主人公の「うさお」が誰かを励ましていることもあれば、うさおが誰かに励まされていることもあります。関係や立場が固定していないことで、かえって想像したり、自分を重ねたりできると思いました。

 「usao漫画」はあまりセリフを書かないようにしています。そのほうが、言葉にならない気持ちを表現できるから。「なんだかモヤモヤするけどどう表現して良いかわからない」という人が読んで、その気持ちに寄り添えるものができたら一番良いなと思って描いています。

——「usao漫画」のようなキャラクター漫画を描く上で、何か参考にしたものはありますか?

 ゆるい雰囲気のイラストやキャラクターは基本的に参考にしていません。似てしまうのも嫌だし、他の作品から影響を受けすぎると、「思ったままに描く」というコンセプトから外れてしまう気がするので。何よりも自分の気持ちを大切にしながら描いています。漫画だと、『AKIRA』や『スラムダンク』のような、ゴリゴリの青年コミックのほうが読みます。最近も『スラムダンク』を読み返してスカッとしていました(笑)。

 ただ、唯一ミッフィーは大好きですね。ミッフィーって「シンプルイズザベスト!」の王道で、シンプルなのに人に何かを伝えられるってすごいなと思います。

 私が感動したのは、泣いているミッフィーのイラスト。涙が足されているだけだけど、粒の大きさや位置が計算されていて、すごく胸を打たれます。こうしてシンプルな表現で、言葉も使わずに感情を表現しているところに尊敬しますね。

「usao漫画」は人のため、「なんでもない絵日記」は自分のため

——「usao漫画」も「なんでもない絵日記」も、うさおさんが日々感じたことがモチーフになっています。この2作で、描き分けは意識していますか?

 あまり考えたことがありませんでしたが、あえて言うなら「usao漫画」は人のため、「なんでもない絵日記」は自分のために描いている気がします。「usao漫画」は誰かに寄り添いたい、励ましたいという気持ちからスタートしたけど、「なんでもない絵日記」は自分の心の成長をただ描いているだけなんですよね。その中で、誰かに響いたらうれしいかな、と思っています。

『なんでもない絵日記』(扶桑社)より

——Twitterで連載していて、「なんでもない絵日記」の感想などは届きますか?

 「自分の感じていた気持ちを代弁してくれてうれしい」といった感想が多いです。それから、「漫画を読んで先生を目指そうと思った」という感想をもらったこともありました。その感想は自分自身、とても励みになりましたね。

——usaoさんは小学校では、漫画を描いていることは伝えているのでしょうか?

 みんな知っていますが、自分から言うことは少ないですね。子どもたちには作家としてではなく、教員として接したいと思っているんです。

 だからあまり話題には上がりませんが、「先生をしながら本を出せるんだ」「大人になっても好きなことを続けられるんだ」とは思っているみたいです。教室にも漫画を置いていますが、ぼろぼろになるまで読み込んでくれていますよ。

——それはうれしいですね。将来の夢が漫画家という子にとっては、自慢の先生なんだろうなと思いました。

 どうでしょう? 「あんなゆるい絵じゃなくて、もっとうまく描け」と思われているかもしれません(笑)。

絵を描くことが、私にできること

——『なんでもない絵日記』を読んでいると、usaoさんがはじめて出会った人に似顔絵を描いて渡すシーンがありました。こうして似顔絵を渡すのは、昔からよくやっていたのでしょうか。

『なんでもない絵日記』(扶桑社)より

 いや、最近ですね。相手は私がこうして漫画を描いていることは知らない場合がほとんどですが、偶然知り合って話をした人に自分の似顔絵を描いてもらえたらきっとうれしいじゃないですか。それで喜んでもらえたら私もうれしいので、それで似顔絵を描くことがあります。人と人との出会いを大切にしたい。ありがとうという気持ちをこめて渡しています。

——「usao漫画」のなりたちもそうですし、usaoさんは絵や漫画の力を信じている方なんだなと思いました。最後に、usaoさんの漫画はどんな人に届いてほしいですか?

 老若男女、誰にでも読んでもらいたいです。一人でも多くの人に買って、読んでほしいですね。無料配布したいくらい(笑)。この本を開いた誰かが、そこに描かれている漫画に少しでも救われたらうれしいです。