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趙景達さん「近代朝鮮の政治文化と民衆運動」インタビュー 言葉残さぬ人々を追って

趙景達さん

 朝鮮と日本の歴史を31年間教えた千葉大学を3月末で定年退職し、この本を出した。「歴史学をなりわいとした者の責任として、仕事の仕上げができたかとほっとしています」

 在日2世で、両親は韓国・済州島から日本に来た。父は廃品回収業を営み、十数人のバタヤ(くず拾い)と言われた人たちと住んでいた。

 将来を決められずに大学に行き、自分のアイデンティティーを探るため朝鮮史を学んだ。何かを見つけられるかと思って大学院へ進んだが、一時は兄と魚屋を開業。半年で失敗し、研究生活に戻った。

 31歳で東京都立大学の助手になってからも、悶々(もんもん)としていた。「在日1世は困難な生活の中でいい研究を残しています。私は学問をする覚悟もなく、こんなみっともない在日2世はありえねえな、という自己嫌悪でした。最底辺の人たちと暮らした過去もあるし、1世に負けないことをやらなきゃいけないと思って」

 38歳から研究に打ち込み始めた。テーマは、日清戦争を誘発し、朝鮮の命運を決めた民衆運動である甲午(こうご)農民戦争(1894年)だった。民衆は言葉を残さないので、様々な史料からその動きを跡づけてきた。

 日本統治下の民衆が独立を求めた最大の運動が、三・一運動(1919年)だ。この本では「政治文化」に注目して考察した。「日本は武断的な政治文化を朝鮮に持ち込み、民衆に深刻な葛藤を与えました。その帰結が三・一運動です。運動は、儒教的な民本主義や民衆の反乱(民乱)など、朝鮮の伝統的な政治文化の上に展開されました」

 本の副題にした「日本との比較」はずっと考えてきた視点だ。「日本では忖度(そんたく)や同調圧力が強いが、朝鮮には異議申し立てをし、文句を言う文化がある。それが民主主義の基礎にあるべきだと思います」(文・石田祐樹 写真は趙氏提供)=朝日新聞2020年5月16日掲載