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中村桃子さん『新敬語「マジヤバイっす」』インタビュー 語尾の「す」って何すか?

中村桃子さん=中村壮太郎提供

 「そうっすね」「おもしろいっす」

 男子学生の会話の語尾の「す」に気づいたのは1990年代。「日本語は『です』『ます』の丁寧体と『だ』の普通体に分けられ、『です』を短縮した表現『す』はその中間です。丁寧さは日本人の大切な価値観ですが、『す』は丁寧さに対する感覚を変えるんじゃないか?」。そんな予測から「ス体」と名付けて調べた。

 体育会系クラブに所属する男子大学生の会話を録音分析して分かったのは、ス体は後輩が先輩に話す時に使い、決してその逆ではないこと。後輩同士でも避ける。つまりス体は「親しい丁寧さ」を表現する一種の敬語だった。「他にも主張を和らげる、仲間意識を示すなどの意味があってス体はとても繊細です」。そこに広がっていたのは「かわいげがあって憎めない豊かな世界」だった。

 しかし世間ではどうだろう。「正しい日本語を話さないとみっともない」「ヤンキー言葉」との批判がネットでは多数派だ。「敬語は日本人が一番頑固なところ。ス体はそこに挑戦しているから反響もすごい」。だが最近はテレビCMで時には女性もス体を使っている。「おもしろさや軽さ、男性との関係に規定されない新しい人物像を表現していて、ス体の可能性を感じます」

 「女ことば」のようにすでに広く認識されたものではなく、まだ固まっていないス体を観察することで、言葉づかいと社会のイデオロギーとの関係を明らかにしようと考えた。「言葉は洋服や化粧のように自分を表現する材料の一つ。最初から正しい日本語があるのではなく、言葉で人間関係が変わり社会も変わるというニュアンスを読み取ってほしい」

 ちゃんとした言語学者が紹介するス体の魅力。日本語に厳しい読者の方々も、触れてみればちょっと使ってみたくなるにちがいないっす。 (文・久田貴志子、写真・中村壮太郎)=朝日新聞2020年5月23日掲載