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野崎まど「タイタン」 「仕事とは何か」、AIが問う

野崎まど著『タイタン』(講談社・1980円)

 人類社会のあらゆる領域が人工知能によって運営される2205年。世界に12基ある巨大AI施設「知能拠点」=タイタンの働きにより、人類は労働から解放されていた。だが心理学を「趣味」とする内匠成果(ないしょうせいか)は、ある日タイタンを管理する知能拠点管理局への「就業」を余儀なくされる。彼女の業務は、謎の機能低下を起こした2基目のタイタン――個体名「コイオス」を「カウンセリング」し、その理由を探ること。コイオスと対話した内匠は「彼」が仕事の不調による心の病……うつ病の症状にあると診断する。

 作家・野崎まどは2009年に第16回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞した『[映]アムリタ』でデビュー。映画撮影を通じ、恐るべき天才に翻弄(ほんろう)される青年たちを描いた異形の青春ミステリーである同作以降、異色作を次々発表。予測不能の展開や実験的文体を通じて読者を大いに驚かせ、あるいは笑わせてきた。近年は「正解するカド」などでアニメ脚本家としても活躍している著者の新作が本書『タイタン』だ。

 「心を病んだAIの心理面接」とは、なるほど著者らしい独特の題材だが、序盤を読む限りでは会話中心の地味な話なのかなとも思わされた。だが、ほどなく人間社会を円滑に運営すべく人を基盤に開発されたというタイタンの真の姿が判明し、評者はまんまと度肝を抜かれてしまった。本書は、巨大で異質な知性との対話という思弁性のみならず、大変に映像的な見せ場も兼ね備えた、文字通り「巨人(タイタン)」についての物語なのだ。

 「働く」とは漢字で人が動くと書く。物理学における仕事とは、力Fによって物体が距離s移動した場合のFとsの積である。仕事から解放されたはずの人間と、仕事しか知らない巨人は、様々な角度から「仕事とは何か」を問いながら、世界を半周する旅を続けていく。新型コロナウイルスの影響で、大勢の人が働き方の変化を余儀なくされている今だけに、その問いかけは評者にとっても、とても切実なものに感じられた。

 長き旅の果てには、印象的な苦みを残しつつも、著者らしいキレ味をそなえたオチが待っている。ファンはもちろんのこと、野崎まど未体験の方にも最初の一冊としてオススメしたい、大スケールのお仕事小説だ。=朝日新聞2020年5月16日掲載