1. HOME
  2. コラム
  3. マンガ今昔物語
  4. 恋した彼女は血まみれの死刑執行人! 門馬司・奏ヨシキ「首を斬らねば分かるまい」(第114回)

恋した彼女は血まみれの死刑執行人! 門馬司・奏ヨシキ「首を斬らねば分かるまい」(第114回)

 全身に返り血を浴びた美少女がまっすぐにこちらを見すえ、静かに日本刀を構えている――。昨年から「ヤングマガジン」(講談社)で連載している『首を斬らねば分かるまい』(門馬司・奏ヨシキ)。まがまがしくも鮮烈な第1巻の表紙とインパクトあるタイトルに目を引かれ、久しぶりに中身も見ずにジャケ買いしてしまった。

 物語の舞台は維新から間もない明治4年(1871年)。華族の御曹司として生まれた愛州幸之助(あいすゆきのすけ)は輝かしい将来を約束されながら、「一度たりとも勃った事がない」という深刻な悩みを抱えていた。ある日、彼は公開処刑を目撃する。首斬り役を務めるのは江戸時代から斬首刑を任されてきた洞門家の八代目当主を少女の身で継いだ沙夜(さよ)。彼女が罪人の首を斬り落とし、その返り血を浴びる姿を見た瞬間、長いこと沈黙を保ち続けた幸之助の股間に生まれて初めての変化が生じるのだった!

 洞門家のモデルになった家は実在する。明治13年(1880年)に斬首刑が廃止されるまで、八代にわたって罪人の首を斬る「御様(おため)し御用」を務めた山田浅(朝)右衛門家だ。1970年代に「週刊現代」(講談社)で連載され、アメリカでも人気が高い『首斬り朝』(小池一夫・小島剛夕)の主人公は江戸中期に生きた三代目・山田浅右衛門吉継。『ゴルゴ13』(さいとう・たかを)と同じく一切感情を表に出さず、淡々と非情な仕事をこなすニヒル(死語)なキャラクターは70年代の劇画ならではだろう。八代続いた山田家にもちろん女性当主などいなかったが、『首を斬らねば分かるまい』はその当主を美少女にしたアイデアが秀逸だ。華族の御曹司と呪われた首斬り家の女当主。いわゆる「美女と野獣」の逆バージョンであり、いまだ身分の壁が高かった明治初期という時代に目をつけたのもいい。

 今月発売された第2巻では、幸之助は旧知の大久保利通に誘われて岩倉使節団に参加。岩倉具視、伊藤博文、津田梅子など実在の人物たちに交じり、2年近い欧米視察の旅に出る。折しもアメリカは南北戦争直後、ドイツには鉄血宰相ビスマルクが君臨していた時代だ。
 本作は吉原や岩倉使節団などのサイドストーリーに多くのページを割いているのも特徴で、第2巻などヒロインの沙夜がほとんど登場しない。ヤンマガ作品らしくベッドシーンをたっぷり盛り込みつつ、明治初期の社会風俗や19世紀後半の国際情勢もていねいに描かれる。幸之助と沙夜の恋愛だけに留まらず、長期連載で明治時代の闇をじっくり描こうとしているらしい。

 なお、当初は重要な設定かと思われた幸之助の先天性EDは、沙夜の首斬りを見た第1話だけであっさり完治! 直後にさっさと童貞を捨てて、吉原やアメリカの娼館で意外な絶倫ぶりを発揮するのは少々鼻白んだ。