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「コロナ時代」マンガ文化に起きていること オンライン同人誌即売会さかんに…どうなるアナログ

「コミックマーケット98 カタログ」の表紙

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID―19)。日本でも感染拡大により、あらゆる業界が甚大な影響を受けている。マンガ界も例外ではなく、これまで見たことのないような変化が現れている。「コロナ時代」に起きているマンガ界の出来事をいくつか紹介したいと思う。

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 外出自粛が求められる中、室内で楽しめるマンガを読む人は増えている。出版科学研究所の発表によると、2020年3月の書籍雑誌の推定販売金額は前年同月に比べ5・6%減となる中、コミックスは約19%増加したという。期間限定のイベントとして雑誌のバックナンバーや単行本の一部をオンラインで無料公開する出版社も多く見られた。

 一方で、雑誌や単行本の販売延期が相次いだのが大きな特徴だ。編集や印刷、流通などを従来のスピードで進めることが難しくなったためだ。

 集英社は4月、『週刊少年ジャンプ』の編集部員が新型コロナウイルスに感染した疑いがあるため、編集作業を中断し、販売を1週間延期した。小学館は『ビッグコミック』で連載中の「ゴルゴ13」(さいとう・たかを作)の新作掲載を見合わせると発表した。1968年の連載開始以来初めてのことで、話題を呼んだ。『ゲッサン』で連載中の「MIX」(あだち充作)も休載になった。

 休載が相次ぐ状況は、マンガの制作現場と関係している。手描き中心のいわゆる「アナログ」で描くマンガ家は、複数のアシスタントと同じ空間で仕事をするのが一般的だ。ベテラン作家の休載が目立つのは、社会的距離を確保しにくく、感染リスクが高い職場環境とも無関係ではないだろう。一方、最近の作家はデジタルツールで作画し、遠隔地にいるアシスタントとやりとりする人も増えている。

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 感染リスクの高さでいうと、5月2日から5日まで開催予定だった世界最大の同人誌即売会「コミックマーケット98(コミケ98)」が中止になったのは驚きではない。

 ただ、中止発表後にコミックマーケット準備会が中心となって、SNSで「エアコミケ」を開催したことは注目に値する。コミケ98の開催日に合わせて企画された本イベントに、多くの人が「#エアコミケ」のハッシュタグをつけて参加。同人誌の情報交換やコスプレ写真の投稿、インターネットによるカタログや同人誌の販売などが行われた。コミケ準備会によると、5月1日から最終日の5日まで、「#エアコミケ」のタグのツイートとリツイートの数は43万を超えたという。

エアコミケのホームページ

 コミケだけではなく、5月17日に開催予定だった自主制作漫画誌の展示即売会「コミティア132extra」も中止になった。その代わりにSNSによる「エアコミティア」を開催した。

 コミケの象徴でもあった参加者の汗や熱気、独特のにおいもないオンライン同人誌即売会は、コロナ時代の主流になっている。

 このように、新型コロナウイルスがマンガ界にもたらした変化の多くは、インターネットとつながっている。これまでも、マンガ読者の雑誌離れや出版市場における電子コミックの占有率上昇、デジタル作画に移行するマンガ家の増加などは指摘されてきた。それでもマンガの現場で「アナログ」な面がなくなることはなかった。

 コロナ禍が生み出したあらゆる制限は、マンガのデジタル化を加速し、マンガ文化そのものを変えていくのだろうか。それとも一時的な変化にとどまり、マンガ家や読者は再びアナログを重んじるようになるのだろうか。パンデミックの終息がまだ見えない中、マンガ文化は時代の転換点に立っている。=朝日新聞2020年5月26日掲載