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「誰にも言わないと言ったけれど」書評 「黒人神学」の出発点

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2020年05月30日
誰にも言わないと言ったけれど 黒人神学と私 著者:ジェイムズ・H.コーン 出版社:新教出版社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784400323570
発売⽇: 2020/03/25
サイズ: 20cm/278p

誰にも言わないと言ったけれど [著]ジェイムズ・H・コーン

 1969年、ベトナム反戦と人種反乱の嵐をよそに難解な教義研究の砦(とりで)に閉じこもっていたアメリカの神学界で一冊の本が波乱を呼んだ。『黒人神学とブラック・パワー』(邦訳『イエスと黒人革命』)。白人社会を恐怖させたマルコムXの思想に共感し、白人優越主義にひたる教会を批判して「黒人神学」の出発点となった本である。
 本書は一昨年永眠したその著者が遺した回想録。
 デトロイトの「長く暑い夏」の人種反乱に触発され、当時29歳の著者は、暴力だけを批判する白人教会や、差別に目をつぶって福音を説く黒人教会の偽善に「もうたくさんだ」と背を向ける。やがて名門ユニオン神学校教授となった彼の元からは黒人女性主体の「ウーマニスト神学」など、人種・階級・ジェンダーの文脈に添った多様な「解放の神学」者が巣立ってゆく。
 勇気を鼓舞する筆致がいい。志に学んで、日本にも近しい「アジア神学」を勉強してみたいと思った。