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カザマタカフミさん「それでも売れないバンドマン」インタビュー 自虐だらけの苦悶の記録…なのに笑いが

文:和田靜香 写真:Nakayama Yume

実はコロナに強いバンド?

 緊急事態宣言が解かれた直後のウィークデー、ロックバンド3markets[ ]は練習スタジオにいた。練習を抜け出してきてくれたカザマタカフミさんと、さっそくzoomをつないでお話を伺う。話題はコロナ禍における、バンドマンの現状からだ。

「コロナのせいでツアーは丸ごと飛んでしまい、10本ぐらいなくなりました。5月に予定されていた僕らにとっては初となる『渋谷クラブ・クアトロ』でのライヴも9月に延期になり、果たして9月にやってもお客さんが来るか?ですね」

 やはり、そうなんですね。バンドマン、今は本当に大変ですねと眉根を寄せて頷こうとしていたら……。

「でも、お客さんが来なくても理由が『コロナ』だとはっきりしてるので、あれこれ考えて悩まないで済みます。普段はライヴやると、お客さんが来ないことに悩み、失敗して落ち込むというのがあまりに多いから、今は逆にライヴがなくて落ち込まないで済んでいます。ただ、生きてる。他は全然考えないので楽でいいです」

 えっ?

「実はライヴがないだけで各々で練習はしてきてるし、まぁ、普通にやっています。ライヴハウスからの配信ライヴも誘われたんですが、それにかかる費用が払いきれないのであきらめました。ライヴハウスもいっぱいいっぱいだから、仕方ないですよね」

 ええっ?

「売れてるバンドマンは大変でしょうが、元々僕らは音楽での収入はゼロなんで、普段とあまり変わりません。コロナに強いバンドなのかもしれません」

 なんということか。いいのか悪いのか。売れないバンドマンは、コロナ禍にあっても大きな影響を受けることはないという、驚きの事実を知る。カザマさんは今、8年続けているという病院での「救急車の受付」というアルバイトを淡々とこなしながら、ひたすら日常を生きている。

ダメだ、ダメだ、自分はダメだっ

 カザマさんは2002年、前身となるバンド、3markets(株)を結成した。14年にメンバーが代わって今の4人組となり、名前も3markets[ ]に、ちょっとだけ変えた。空欄の[ ]には「あらかじめ決められていた窮屈な社会にほんの少しの自由を」という願いが込められているらしい。「セブンスター」「レモン×」「アルバイト」と、いい曲はけっこうあるんだけど、コアなファンにしか知られてない。売れない。何度も言ってごめんなさいだけど、売れない。その苦悩を02年から悶々と日記に綴って来た。

「何か発信できれば、というぐらいの軽い気持ちで、ただダラダラと続けています」

 それはこんな風だ。

“一生何もなく、ただこのアパートで朽ちていくか死ぬしかない。
重ねた年月の分だけ、自分に才能がないと思い知らされるようだ。”

“自分には本当になにもないって認めたらラクになれるのに。”
(「売れないバンドマン」より)

“本当にもうダメかもしれない。売れたいのに売れない。
才能のなさに打ちのめされる日々。もがいて苦しんでる日々。
その様子すら面白おかしく、「売れないバンドマン」として紹介される日々。
ギリギリだ。限界だ。何もかもなくなっていく。
本当にもうダメかもしれない。けれど、まだダメにはなっていない。”

“毎年毎年、今年こそ、今年こそはと思ってきた。
今年こそって何だよって言われると、
今年こそ売れたいのか? 今年こそやめたい、のか?
もうどっちなのかもわからなくなるほどきっかけをただ待っていた。待ってるだけ。”
(「それでも売れないバンドマン」より)

 とんでもない苦悶の記録。今年こそ売れたいのに、今年こそ辞めたいのか分からなくなってしまうとか。重症だ。しかし、カザマさんのどうにもこうにもならない弱音と愚痴にあふれた日記は、実は一読者としてはとても面白い。正直、何度も声に出して笑った。本を読んで声に出して笑うって、あります? そうそうないですよね。

 なにせカザマさんが不幸を嘆く言葉のバリエーションは豊かで、思わず唸るほど。さすがミュージシャン、言葉にはリズムがある。

 共感もあるかもしれない。誰の中にも、こうなりたい!と願う自分になれない自己嫌悪や、どうにもならない不安はある。ダメだ、ダメだ、自分はダメだって、特にこのコロナ禍の中、誰もがそう思ったろう。自粛期間中も何かを成し遂げる人、がんばる人をSNSなどで見ては、ああ、自分はダメだなぁと思って自己嫌悪に陥ったこととか。私たちの中にも、きっとカザマタカフミはいるのだ。

「ダメって、僕の場合は劣等感が強いんだと思います。売れてるバンドと比べ、歌が上手い人と比べ、自分は何も出来ない、だからダメって。そう言い続けてきました」

 言い続けてきて、読者や他人からの反応は? 慰められたり励まされたりしますか?

「人に慰められるのはけっこう嫌いです。大変だねって言われるぐらいならまだしも、自分が弱い人間だとは思われたくないんです。僕は弱いも強いもなくて、フツーの人間ですから。ただ死にたいと言ってるだけ、なんです」

 何言ってんですか、それ?と聞いていて思わず噴き出してしまった。本で読んでるときと同じだ。徹底的にネガティヴなはずなのに、妙に積極的で強気、それが面白さになる。矛盾したことを言ってるようだけど、人間って、そんなものでしょう。こう思ったり。ああ思ったり。日々迷い、右往左往。だからカザマさんの弱音も愚痴もウソがなくて共感できるし、もっともっと読みたくなる、聞きたくなる。

「文章では暗くなり過ぎないように、読んでみて温度感みたいのを自分で調整していきます。死にたい死にたいって気持ちを持っていても、それをどう伝えるか?ってすごい考えます」

売れたい売れたい、売れたい基準は?

 そんなカザマさんをさらによく知るための1曲を教えてもらった。

「僕を知ってもらうには“社会のゴミカザマタカフミ”を聞いてもらったらいいです。去年発表した曲ですが、自己紹介ソングです。口癖だったんですよね、僕は社会のゴミって。僕がいなくても社会は困らないでしょう?」

“俺は社会のゴミ カザマタカフミ
大変な底辺 人として0点
歩く産業廃棄物 悲しみだけが今の私物
ゴビ砂漠より乾く心 バチカン市国より小さい人
不幸製造機として名機 不安を人様にメイキング”
(「社会のゴミカザマタカフミ」より)

 ゴミと声高に歌うパワフルなネガティヴさに、カザマタカフミここに極まれり!と宣言したくなる。ここまでネガティヴを深堀りする、その度胸に恐れ入る。

「人にネガティヴだ、暗いとか言われてきて、じゃ、どこまでやったら究極のネガティヴになるのかな?と思ってこの曲を書いたら、最大級のネガティヴは逆に笑えるって分かりました。最初、プロデューサーにはダメ出しされたんです。NGだって、こんな歌詞。でも、止めろ!って言うのはそこにそれだけの理由があるだろう、突破口があるはずだからやってやろう!と思って完成させました」

 本にはこう書いてある。

“ダメならダメでしょうがないし、ゴミはゴミのまま捨てることも多々あるけど、
捨てる前にちゃんと燃やしてエネルギーに変えれたらいい。”
(「それでも売れないバンドマン」より)

 そうだ。ダメな自分でも、ゴミみたいに自分が思えても。そんな自分を捨てる前にちゃんと燃やしてエネルギーに変えなきゃ。となればカザマさん、自分を燃やし尽くして、あとは売れるだけじゃないですか。

「どうしたら売れますか?と人に尋ねると、『そのままでいい』って、いつも言われるんです。でも、そもそも自分がないんで、そのままと言われても困ります。音楽性も特にこだわりがなくて、子どもの頃から何か悲しみを抱えていたとかじゃなくて普通に生きて、普通に歌ってきました」

 特別な人ほど自分は普通だと言い、普通の人ほど自分を特別に見せたがるけど、カザマさんは明らかに前者。次の本は「やっぱり売れないバンドマン」ですかね?などと失礼なことを言うと、「それは避けたいです。そろそろ売れないと困ります。本当に売れて『ついに売れたバンドマン』という本を書きたいです」

 売れたいって、どれぐらい売れたいのか尋ねたら「バイトが辞められれば……」と言う。ち、小さい……。

 それがカザマタカフミ。売れないバンドマン。いやいや、未来進行形で「必ず売れるバンドマン」になるはず。がんばれ、カザマタカフミ!