「タコの知性」書評 吸盤で学習する恥ずかしがり屋
ISBN: 9784022950666
発売⽇: 2020/04/13
サイズ: 18cm/247p
タコの知性 その感覚と思考 [著]池田譲
小学校低学年の頃、私のお小遣いは一日十円。学校からの帰り道、竹皮の舟皿に載った二個五円のタコ焼きを買うのが大の楽しみだった。そのためか今でもタコ料理全般に目がない。
さかなクンが聞けばギョとするセリフ「水産だからって魚好きだと思うなよ」をはく著者は、スルメイカで研究のキャリアを開始。だがタコへの関心はそれを上回る「憧れ」だったそうだ。なんとも格好良く清々(すがすが)しい。そして彼の憧れるタコ研究は全く役に立たないものの、すこぶる面白い。
タコの目は色を識別できないが図形は区別できる。それどころか、高感度センサーである腕の吸盤を用いた触覚学習、さらには、隣のタコの動作を目で見て学ぶ見まね学習すら可能だ。
園芸用ポットに籠もるタコは、隣のタコのポットが近づくと自分のポットを遠ざけるほど、他個体との接触を嫌う単独性だ。
鏡に映った自分を理解する鏡像自己認知、道具使用、二足歩行などの能力を兼ね備えたタコは恥ずかしがり屋らしい。そんなタコ見知りのくせに、合成麻薬「愛の薬」を摂取させるとハイになり、他のタコに腕を伸ばして触るようになる(動物実験の倫理基準が厳しくなり、今ではこの実験は実行困難とのこと)。
とはいえ、学生が解凍不十分のサクラエビを与えたところ、怒って水中で彼らに向けてその餌を投げつけたオオマルモンダコの話(失礼ながらこのタコ~!!といったところか?)まではにわかには信じがたい。
著者によれば、「貝家(かいけ)」の殻を捨て、巨大脳・レンズ眼・巧みに操作できる八本腕を武器に、知の世界の地平を開いたのがタコなのだ。
わずか一、二年の寿命にもかかわらず、運悪く人間に捕まり切り刻まれたタコは、最期にそのつぶらな瞳で何を見て何を考えるのであろう。高度なタコの知性を知ってしまった私は、これからタコ抜きのタコ焼き以外食べられなくなるかもしれない。不安だ。
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いけだ・ゆずる 1964年生まれ。琉球大教授(頭足類の社会性、自然史、飼育学)。『イカの心を探る』など。