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「育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。」玉置標本さんと河原をゆく 採集できた食べ物は・・・?

文:加賀直樹、写真:加藤梢

まずは桑の実(マルベリー)を採集、実食

――今にも雨の降り出しそうな空。降られなきゃ良いけれど……。川べりに到着しました。鳥が鳴いています。土手には、約3メートルの大木が。何の木だろう。

 これは桑の木です。そしてこれが桑の実。2センチぐらいの大きさで、真っ黒になっていますよね。これぐらい真っ黒に色が変われば美味しいんです。

――どんな味がするんだろう。

 食べてみます?

――そのまま生で食べちゃうんですか。

 ちょっとザルを持ってきますね……。(車に戻ってザルを持ってきて、桑の木にいっぱいなっている実を採り始めながら)この時期、近くの人たちも皆、狙っているので、美味しそうな実がどんどん採られちゃっているなあ。この、赤い実はすごく酸っぱいんです。真っ黒になった実が美味しい。色の変化としては最初、緑色で、それが赤色に染まって、黒になる。赤い実はパッと見た感じでは、とっても美味しそうに見えるんですけど、ホント酸っぱい。

――実が黒くなる時期は。

 ちょうど今頃です。ほら、完熟した状態だと、触るだけでポロっと落ちてくるでしょう。これぐらい黒いのが一番甘いんです。これ以上熟すと、地面に落ちちゃう。ギリギリのところです。ちょっとベリーっぽいですよね。「マルベリー」というんですよね、桑の実。洗いに行きましょう。(川べりの小さな公園の水道に移動して)このへんは鳥も食べていますね。

――鳥にとっても、ごちそうなんでしょうね。

 そうですね。(洗い終えて)どうぞ。

――きれいな色。いただきます。(もぐもぐ)

 緑の枝の部分はちょっと硬いので、残してください。サクランボみたいな食べ方で。

――(もぐもぐ)うん。甘いですね。ブドウの皮の部分を食べているような食感。美味しいです。ちょっと、赤い実も試しに食べてみて良いですか。……うん、やはり酸っぱい! でも、これはこれで美味しいかも知れない。

 プラム的な酸っぱさ。イヤな酸っぱさではないですよね。

――爽やかな酸っぱさ。私、赤い実もイケるかも知れない。予想外に美味しい。

 桑の木によって、甘い木と甘くない木があるんですよ。理由は分からないんですけど、この先にある桑の木の実は、小っちゃいし甘くない。ギンナンでも大小の差がありますよね。

――美味しかった。ごちそうさまでした。

 土手をちょっと歩きましょうか。桑の木は多摩川にもやたら生えていますよ。鳥が運んで、勝手に生えちゃうんじゃないかと想像しているんですけど。この本に書いた「渋い未熟なクルミで、真っ黒い酒(ノチーノ)を仕込みたい」の章で扱った、クルミの青い実も、この土手の先で拾ったんです。

 果実酒といえば、梅、カリン、レモンなどを思い浮かべるが、イタリアには未完熟の青いクルミで作る、ノチーノというリキュールがあるらしい。
 試しにと作ってみたところ、これが私の知っている果実酒作りの知識とはまったく違う工程で、できあがった結果は不安になるほど真っ黒だったのだ。――本書より

今の時期はテナガエビ、マスタードシードも

――原材料の味を知らねば、と言って、青いクルミの実を口にして、「食べるどころか口内の粘膜に触れた時点で全身が拒絶反応を起こし、毒キノコをかじってみた時以上にやばい」と記しておられた章ですよね。ものすごく試行錯誤を重ね、体を張った回。この川べりには、よくいらっしゃるんですか。

 季節によるんですけど、春は週2日。キノコを探します。今の時期なら桑の実、テナガエビ、マスタードシード(カラシナの種)。真夏になると来ないんです。暑すぎて。そして秋は、川べりにはあまり来ずに、キノコに詳しい人にキノコ狩りに連れて行ってもらう。それから自宅菜園の収穫シーズンなので、そっちに没頭します。

――キノコも、詳しい人に聞かないと危ないですもんね。

 僕も全然詳しくなかったので、人に聞いたりしながら、年に1つ、2つずつ知識を増やしていく。冬はクズ。クズの根を掘って、葛粉を精製し、葛餅にまで仕上げてみた様子は、本に書きました。

――そう考えると、春夏秋冬、すぐ過ぎちゃいますね。

 あれもやろう、これもやろう。やりたいものが増えていく。そうすると、時間が足りなくなってしまうんです。……ちなみに、あそこに生えているのは、ノビルです。

――可愛い。この、てっぺんに付着しているものは、花でしょうか。

 これは花ではなくムカゴ。わき芽が養分を蓄え膨らんでいるんです。ノビルのムカゴも食えるんです。ノビルというと、小さいイメージですが、1メートル弱ぐらいありますね。球根や葉の部分はここまで大きくなると硬すぎて食べられないですけど、ムカゴは揚げると美味しいですよ。

――山芋のムカゴは和食屋さんで食べたことがあります。

 こっちの雑草はギシギシです。

 ギシギシという雑草の新芽にはジュンサイに似た粘りがあり、オカジュンサイという名前でも呼ばれているそうだ。食べられる野草に詳しい野草愛好家ののんから教えてもらった。
 あのどこにでも生えている雑草の新芽が食べられるのか。しかも池の中で育つ高級食材のジュンサイに似ているとは、一体どういうことだろう。――本書より

――シュウ酸という成分が含まれていて、毒性があるんですよね。これを抜かないといけない。試食時のユーモラスな描写が、オカジュンサイの「オカ」感、つまり本家ジュンサイよりも格下であるという表現になっていて、笑っちゃいました。

 「育ちが違うんだ」というところですね。当たり前だけど高級食材のジュンサイとは違うんですけど、これはこれで個性的な食材ですよ。ギシギシの新芽は冬。天ぷらで食べられます。でも、ここまで成長してしまうと美味しくない。もうちょっと向こうに移動して、カラシナを採りましょうか。

活動の源流は大学時代の「山形宝さがし」

――わかりました。ご出身は埼玉。でも、大学は首都圏ではないそうですね。

 大学は山形で、デザイン工学部という変わった名前のところに行きました。その前に通っていた高校は技術系で、プログラムなどを学ぶ学校だったんです。普通は就職したり専門学校に行ったりするんですけど、何となく「まだ就職したくないな」。入れる大学を探したら、山村留学みたいな感じになってしまいました。コンピューターをいじり、デザインもちょっとやるみたいな感じ。大学進学先は何も考えずに、何となく雰囲気で決めたんです。

――でも、面白そうな学びの分野ですよね。

 そうですね。大学3年の時のメインの授業が、「山形宝さがし」という謎の授業だったんです。専攻したコースは一学年が約40人で、3年と4年が一緒になって、チームになって山形にある埋もれた宝を探して盛り立てよう、みたいな。文化遺産、名物料理でも良いし、「ここのおばあちゃんが面白い」とか。

――ひともありなんですね。

 「この田んぼが綺麗」とか。県民が宝だと思うものを集め、取材に行き、文章やweb記事にする。集まった宝の候補を見て、興味のあるものを取材し、展覧会を開くんです。いま、やっていることも、基本的にその流れである気がします。例えばコンニャクや、カンピョウ。存在は知っているけれど、じつはどんなものか知らない。それなら、ちゃんと調べてみよう、みたいな。

――その二つは、いずれも本書で実践していますね。コンニャクイモを植えるところから手作りに挑戦したり、海苔巻きで見かけるカンピョウを詳しく調べたり。

 カンピョウ、くるくる巻きながら切っている光景は、テレビなんかで観てうすうす知っているんですが、やはり一度はちゃんと向き合ってみるべきだと思ったんです。……ちなみにこの草、カラスムギという名前ですが、オートミールに使われる燕麦(エンバク)の仲間なんですね。ここ、もう実が落ちちゃっているんですけど、落ちる前の実で小麦粉みたいにカラスムギ粉をつくったんですけど、すごく大変だった。まず、実を集めますよね。(しばらく無言で実を採取)。1個ずつむいて、なかにある殻を割って、……米粒みたいなものが出てくるんですよ。これを取り出し、潰して、ふるって粉をとる。延々やったんですけど、ツラいだけでした。最終的に、小さじ1杯分ぐらいの粉しか採れなかった。

――それは遠大な作業ですね。

 炭水化物を野生で採るのは大変なんです。たんぱく質と違って。ちょっと先のほうまで歩いていきましょうか。

――わかりました。(歩きながら)玉置さんの1日の生活サイクルって、どんな感じなのですか。

 小学5年生と2年生の子どもがいるので、朝7時ぐらいに起きて、子どもを小学校に送り出してから、取材がない日は家で記事を書いたりしています。でも、昼間は働いていないかも知れない。夜、子どもが寝て、10時から午前2時ぐらいまでが一番働いている気がします。夜行性になっている。昼間は遊んでいます。

下調べはしない、最短距離は歩かない

――でも、その遊びが、こうしてお仕事に繋がっていらっしゃるわけですもんね。大学を出てからは、サラリーマンだったそうですね。

 30歳まで、web制作会社に勤めていました。会社を辞めるちょっと前から、「デイリーポータルZ」で記事を書き始めて。ちょっとずつライターの仕事を増やして、会社を辞めて独立後はweb制作をやりつつライターもやっていたんですけど、だんだんライターしかやらなくなってきたんです。

――あまり下調べをしないで取材に臨む、と著書の中にありましたが。

 しないです。

――なぜですか。

 畑に種を植えるという行為とか、何かを捕りに行く行為って、ある意味、ゲームを始める、物語を読み始めるというニュアンスが自分のなかであるんです。調べものをしてしまうと、それこそゲームの攻略本を見ながら、それをなぞって進めていく、みたいな意味合いになってしまう。そうすると、間違えないじゃないですか。まっすぐな、最短距離しか歩かない。……ここの隣にある竹やぶは立ち入り禁止で、有刺鉄線が張られています。あそこ、タケノコがいっぱい生えていて、有刺鉄線の隙間から手を伸ばして獲る人がいるんですよ。

――蛮勇な人ですね。タケノコと言えば昔、富山県に赴任していた時、地元の友人にタケノコ料理をふるまってもらったんですけど、メチャクチャ硬いのがあって、「竹とタケノコの境界線」を知ってしまった思い出があります。「やっぱりタケノコって竹なんだなあ」って。本書のタイトルを見た時に「あっ!」って、走馬灯のように当時の記憶が蘇りました。

 ある年の春、食べるにはちょっと硬すぎる育ちすぎたタケノコをたくさんもらってきたので、「ものは試し」とメンマを作ってみたんです。産地の中国では採算面の悪さから敬遠されているそうで、世界的なメンマ不足が解消される日は近いかも知れない、と思うほど、意外とちゃんとしたものができました。その時の様子を書いた章は、本のタイトルになりました。

――土手から再び、川面へ降りる斜面へ。背丈ほどまで雑草の生い茂った草むらを分け入っていきます。

 これが「カラシナ」です。まだ微妙に早いかな。このへん、全部カラシナですね。鞘のなかに種が入っているんです。触ると弾けるんですよ。これ。これが種です。

――粒マスタードを、粗びきソーセージに載せ試食する場面、メチャクチャ美味しそうでした。

 触ると一瞬で弾けちゃう。一つの鞘に20粒は入っているでしょうか。2列になっていて、ホント、触ったそばから弾ける。これ、知らないと、ただの謎の雑草なんですけど、新芽を食べても美味しいんですよ。もうちょっと育ったら、蕾みたいな部分も美味しい。だいぶ楽しめますね。草とかキノコを採るのは、人がいる時間だと、「何をしているんですか?」って聞かれるんです。だから、なるべく人のいない時間帯を狙っていくようにしています。

――(雨が本降りになってきて)結構、降ってきちゃいましたね。こんな日にごめんなさい。いつもお一人で行動しているのでしょうか。

 そうですね。こういう「どうでも良いこと」を一人でやっています。キノコ狩りや蜂の子を捕る時は、誰かと一緒に行きます。……ちなみにあっちに生えている草、分かりにくいですけど、クコ。赤い実のなるクコです。ちょっと行ってみましょうか。

クコは実じゃなく、葉っぱが美味しい

――クコ。漢方にありますよね。わあ、たくさん生えていますね。

 杏仁豆腐のうえに飾りますよね。でもむしろ、この葉っぱが美味しいんです。炒め物に入れるとすごく美味しい。

――ええ? ちょっと分厚そうに見えるんですけど。つややかな、綺麗な緑色の葉ですね。

 意外と食べられるんです。これです。クコの葉っぱ。鶏肉と炒めるとすごく美味しいんです。見た目より意外と柔らかい。ここ、死ぬほどいっぱい生えていますね。

――それにしても、知らなければ、ただの雑草。クコの葉が美味しいことを知ったきっかけは。

 野草好きの友達に教わりました。実が食べられるのは知っているじゃないですか。でも、クコの実は、赤くて美味しそうだけど、食べるとそれほど美味しくない。

――たしかに、ルックスほどの充足感はないかも知れない。

 そういう話を友達にしたら「葉っぱ食いなよ!」って。「そんなわけないだろ」と思って食べたら、じつに美味しい。こういう活動をやっていると、いろいろな人と知り合うので面白いんですよ。

――クコ、意外に大きいんですね。1メートルぐらいの背丈があるでしょうか。

 新芽が柔らかいんです。このままではアレですけど、炒め物なら美味しい。ちょっとしたホウレンソウだと思ってください。……全然違いますけど。

――たしかに鉄分が豊富そうにも見えてきました。

 持って帰って食べてみます? 棘がヤバいんですよ。知らないで握ると痛い。クコはナス科なんです。

――うわあ、結構ゴツい葉っぱですね。気をつけて持ち帰らないと。あのう、玉置さんのご興味が、「食」に収斂されていったのは、いつ頃からだったのでしょうか。

 採ったものを食べるようになったのは、大学生の時からです。高校までは実家だったので、実家に住んでいると自分で料理しないじゃないですか。台所も勝手に使うと怒られる。大学で山形に移って、友達と「せっかく田舎だから」とか言って釣りに行ったり、山菜採りに連れて行ってもらったりして、それで自分で食べ始めたという感じです。

――そうすると、あくまで「採って食べる」ことが肝要なのですね。そうした一連の行動を記録として「標本」にする。それにしても、料理の手さばきがスゴいのと、料理にまつわる描写がビビットで。

 自分で手を動かすと、いろいろ知ることができるじゃないですか。獲ってきた魚を食べるにしても、たとえばアジが美味しかったら、「どこで釣った、どの時期のアジだから美味しい」ということまで分かる。魚屋で買ってきちゃうとその辺がピンと来ない、というか。

――食卓に上がるまでの経路が分断されてしまいますもんね。

 ターゲットを決めて、「どうやって獲ろうかな」という妄想を始めて、実際に行って、現地で情報を集めつつ獲って、持って帰って、「さて、どうやって食べよう」って考えて、料理して、食べるまでの一連の話が、1本のストーリー。この本の場合は、種をまいて、世話をしつつ成長を眺めて、成長段階でも食べつつ、見守りながら最終的に食べる。

――一連の流れを追うわけですね。

 そうですね。食べるだけだったら、コンニャクなんて、買ってきた方が絶対早いに決まっています。買えば100円ぐらいなんですよね。

本の話が来て、「コンニャクでも植えますか」

――この本はいつ準備されたのですか。

 昨春です。話があって、編集者から「書き下ろしが必要ですね」ということで、「じゃあ、コンニャクでも植えますか」。準備に1年かかるんですよ。コンニャクイモって1年じゃできない。「二年子」というのが売っているんです。だから、ちょっとズルしましたけど。(クコの葉を茎ごとパチパチ採取していく玉置さん。葉を袋に入れて筆者に差し出し)……はい、雑草です。

――あ、ありがとうございます。頂戴します。

 ナンプラーを入れて炒めるとオリエンタルになります。ふつうに葉物野菜だと思って食べられます。

カメラマンが、クコの葉と鶏肉を炒めて作ってみました。「野草と思って身構えるほど苦味やえぐみはなく、普通に美味しくいただけました」とのこと

――今後、広げていきたいフィールドは。

 人にモノを教わりたいです。自分で勝手にやるのも楽しいんですけど。専門家とか、専門じゃないけど趣味で色々やっている人。以前、子どもの頃からハチ捕りをやっているお爺さん3人組がいて、その3人にくっついて、岐阜でハチ捕りを教わるという経験が、すごく楽しかったんですよ。そういう経験を増やしていけたら、と思っています。フワッとした答えでアレなんですけど。植物でも、変わった野菜をずっと育てている人に話を聞いてみたい。自然と1対1でやるのも楽しいですけど、そこに詳しい人が入ると、話が立体的に見えてくる。

――確かに。

 駅まで車でお送りしますよ。(車中で)僕の視線って基本的に「初心者」なんです。未経験の初心者がいろいろやってみました、という話なんで。小学生の自由研究みたいなのも良いけれど、他人に聞いて、「体験型インタビュー」みたいなのも楽しいかな、と思っています。ほら、子どもがよく、ツツジの花の蜜を吸っているじゃないですか。僕の活動って、あれの延長線である気がしているんです。

――ツツジの蜜、懐かしい。

 ザリガニ釣りもそうです。大人が本気を出してやりつつ、難しいことはなるべくやらない。

――そこも面白みのコツなんでしょうね。いっぱい失敗していらっしゃいますもんね。どの回も、最短距離じゃない。

 ホントに最短距離を目指すのなら、「買って来い」って話なんです。

――つくる過程こそが大事。

 それを書き残しておく、ということをやりたいんです。

――興味がご自身の仕事と結びつくことは、大変かも知れないけれど、幸せなことかも知れません。

 効率悪いですけどね。すぐ成功すると「あれっ?」って思うんです。……駅に着きました。晴れてきましたね。腹立ちますね。

――ごめんなさい、濡れさせてしまって。ありがとうございました。そして、ごちそうさまでした!