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麒麟・川島明さん「#麒麟川島のタグ大喜利」インタビュー 無機質なものも笑いにできたら、世の中すべてがお題に

文:根津香菜子、写真:宝島社提供

千鳥・ノブの歯が抜けててよかった

――川島さんがインスタグラムそのものを始められたのは、いつごろ、どんなきっかけだったのでしょうか。

 7、8年くらい前だと思います。当初は手探りで、まだ「インスタ」という言葉も知らないようなころに始めました。それまではTwitterに愛犬の写真を載せていたんですけど、Twitterよりもきれいな写真がアップできると聞いて、インスタに切り替えたのがきっかけでした。

――差し歯が抜けた千鳥・ノブさんの笑顔の写真にタグをつけて投稿したのが、今の
「タグ大喜利」のスタートだったそうですね。

 たしかあの時は、千鳥と笑い飯さんのライブに行った後の、食事の席でのことだったと思います。スマホを新しいのに替えたんですが、カメラにポートレート機能がついていたので試しにノブを撮ってみたんです。今思えば、その機能がついていてよかったなと。それがなかったら、今の「タグ大喜利」はないですもん。あの笑顔もたまたまで、舞台上では差し歯を入れていたんですけど「なんか、歯抜けてんな」と気づいてビックリして撮りたくなったんです。歯が抜けててよかったです、いい写真になりました。

かまいたちの山内くんは中華っぽい

――「大喜利」という演芸形式は昔からお好きだったのですか?

 17、8歳くらいの時に、8時間ただネジを締めるというバイトをしていたんです。「芸人になるにはどうしたらいいんかな」と模索していたころで、NSCというよしもとのお笑い養成所に通うお金を貯めるためにバイトしていました。ウエイターとか接客業でもよかったんですけど、人見知りで緊張しいだったので。自分にとっては就活みたいなもんでしたね。

 そんな時に、テレビでダウンタウンの松本(人志)さんが古い廃墟のようなところで「写真で一言」みたいな大喜利を一人でやられているのを見て「こんなおもろいことあんねや」と思ったんです。深夜にやっていたのをビデオに録画しておいて、朝発表されたお題だけ見て、ビデオの停止ボタンを押してバイトに行くんです。ネジ締めをやっている間は究極に暇だったので、一日かけてそのお題に対する答えを考えていました。5、6個「ええな」と思うものを持って帰って、再生ボタンを押して答え合わせをする、みたいなことをしていました。だけど、松本さんの考えるものはケタ違いで「松本さん、すごいな」という印象が強かったです。

――川島さんは芸人さんを撮った写真の、特にどんなところを注視してタグ大喜利を考えているのですか。

 写真は大体4枚撮らせてもらっています。真正面でカメラ目線ありとなしのと、ちょっと斜めになって目線ありとなしの4パターンを撮って、その4枚の中から自然に目についた一枚を使っています。大体、まず輪郭から入って、和洋中どれにしようかなと考えていますね。坊主の人はとにかく丸いものを思い浮かべます。例えばバイきんぐの小峠(英二)さんは、和風で侍的な感じがするので「タピオカではないな」「ギンナンの方が似合うな」とか、かまいたちの山内(健司)くんはタグに小籠包って言葉をつけているんですけど、彼、何かちょっと中華っぽいんですよ。同じ丸みを帯びている顔でも、ちょっと中華っぽいものにしようかなと。

『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)より

――タグ大喜利には使われていないですが、コラムに載っているバービーさん(フォーリンラブ)とワニの写真も最高ですね。

 あれね、すごくいい顔してるでしょ。何かのロケでワニと一緒だったらしいんですけど、ワニは何も悪いことしないから大丈夫だって、一緒に写真を撮ったんですが、あまりにいい写真だったから僕が気にいっていた写真なんですけど、そういうのもこの本に載せることができて嬉しいです。それにしてもワニが笑いのアイテムになるってすごいな。

――芸人さんそれぞれに約10個のタグ大喜利がついていますが、一つの表情からあれだけの例えを思いつかれるワードセンスが素晴らしいなと思いました。インスピレーションはどこから舞い降りてくるものなのですか?

 考えるときは移動中や楽屋が多いです。一人10個考えなあかんので、ずーっと写真を見ていないと出てこないんですよ。「~の中学生」とか「~な童貞」とか色々なパターンがあるんですけど、人じゃないものにもいかなあかんし、着ている服や背景も大喜利のお題にしないとあかんので、とにかく写真を見つくす、ということですかね。それで頭に浮かんだやつをスマホのメモ帳に入れておいて、あとで順番を考えています。書いているのは好きな言葉やフレーズばっかりなので、今まで生きてきて自分が好きな言葉が頭で引っかかっているんでしょうかね。

――芸人さんたちからのリプライもそれぞれ個性が出ていておもしろいですよね。色々イジっておいて、最後の一文で褒めてアゲるというオチも、川島さんの芸人さんたちへの愛情があってこそ!

 最後の一行でその人のいいところを表したいと思っているので、そのタグを考えるのが一番時間かかるんです。でも、この本に載っている人たちは、僕が心から好きな芸人さんたちばかりなので、普段から思っていることなんですよね。前半の9個でボコボコにしているので、そのアフターケアを(笑)。でも、冗談抜きで最後のタグは「この人のここがすごいな」と思っていることなので、いわばその人のキャッチフレーズみたいなもんなんです。だから丁寧に考えてやっています。

――ノンスタイルの井上(裕介)さんだけ、最後のタグが空白のままなのがとても気になったのですが……。

 「こいつはここがいいな」と思うところが浮かばなかったんです(笑)。でも、それが井上くんの長所なんですよ。例えば(ハイキングウォーキングの鈴木)Q太郎さんのタグは映画のストーリーみたいになっていたり、澤部(佑)くん(ハライチ)のは全部「~な童貞」で終わっているとか、色々なパターンがあるんですけど、それを崩してみたくて、最後の最後に褒めないっていうのを一度やってみたかったんです。

 井上くんは色々あって好感度が下がっていたので、使わせてもらいました。他の人でやったら誤植と捉えかねないんですけど、彼はヒールな芸人なんで、それをやっても納得してくれるという井上くんの力量に助けられているところもあるんです。ただ、最後のタグを空白にしているにもかかわらず、彼は何も触れてくれない。「最後の褒めの言葉ないんかい!」みたいなのが来るかなと思っていたけど、気づいていないんでしょうね。それもまた彼の魅力です。

『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)より

ダ・ヴィンチもウケ狙いかも!?

――本書の後半に載っている絵画や彫刻にタグづけした「#画像で一言」シリーズも大好きです。今回は西洋の作品が多いですが、日本画にもネタになりそうなおもしろい作品がたくさんありそうですよね。

 そうなんですよ。僕も実際にルーヴル美術館やオルセー美術館に仕事で行かせてもらって作品を見たんですけど、どう見ても「これ絶対ボケで作ってるな」って思う作品があるんですよ。「いい大人がカッコつけてポーズとっているけど、全裸やし!」とか「なんか小っちゃい天使が横におる」とか「これはおもろいでっしゃろ」っていう発想のものが多いんです。多分ロダンの作品とかも、技術が凄すぎて「これはすごい!」ってみんなに思われてしまったけど「こんなつもりで作ったんじゃないのにな」とロダンは思っていたかもしれない。

 僕らでも大喜利をやっていて思う時があるんです。ウケ狙いで言ったのに、「おぉ~」と拍手が起きる時があって、それの集大成がルーヴル美術館にあるんじゃないかと思っているんですよ。もしかしたらレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」や「最後の晩餐」も、描いた本人はそんなに意味はなかったかもしれないけど「俺はこう思うんです」とか「これはこういう意味が込められているんです」とか、みんなが勝手に紐解いているじゃないですか。そういうのをちょっと成仏させたいなっていう気持ちがあるんです。

『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)より

――その作品にどういう意図があって作った、描いたかなんて、本人にしか分からないですもんね。

 そうそう! で、その余白をみんなが楽しむじゃないですか。僕はアホなので理解ができないから「じゃあホンマの意味って何かな」って思うんです。「そんな大層なもんちゃうねん!」っていう作品もいっぱいあると思うので、僕のタグも正解ではないけど、分からないなりに「こう見るといいよ」とか「こういう楽しみ方はどうですか?」という提案はしてみたいですね。

――これからタグ大喜利をしてみたい、狙っている人はどなたかいらっしゃいますか?

 好きな芸人さんが出来たらインスタであげていくことはずっと続けていこうと思っています。その他に一つ考えているのは、無機質なもの。さっき話した銅像や美術作品も、色んな違和感があったので自分なりの見方をしたタグをつけているんですが、ただの飛行機雲とか、ただの水たまりとかにパンと一言つけて笑えるものにできたら、もうこの世のものすべてがお題になりますよ。究極、それに挑戦したいです。でも、なんのキャッチ―なこともないので、あくまで趣味としていつかインスタで一回くらいやってみて「いいね!」の数が少なかったら、すぐなかったことにしようかな(笑)。

――タグ大喜利をするようになって、ご自身に何か変化はありましたか?

 意外といろんな人が僕のインスタを見てくれているんだなと思いました。この前あるトップアイドルの方と共演した時にこの本を渡したら、僕のインスタをめっちゃ見てくれていて「これ面白いですよね!」と言ってくれたし、ダレノガレ明美ちゃんやみちょぱちゃんとか、今まで交流がなかった人が本の感想をTwitterでつぶやいてくれて、何かちょっと結婚式のような気分ですよ。「あ、こんな人もおめでとうって言ってくれるんだ」みたいな。色んな人に感謝する機会になったと思います。

 いつのころからか分からないんですが、僕のSNSのコメント欄に、タグでボケてくれたり「僕はこう見える」ってコメントしてくれたりする人が1000人くらいいて、みなさん一生懸命考えてつけてくれるんです。それがよかったら僕からも「いいね!」をつけてます。何かラジオみたいな、皆さん参加型の大喜利番組のような感じになっていて嬉しいですね。

――今回「タグ大喜利」でご自身の本を出されましたが、川島さんは大の漫画好きとのこと。これまで読んできた中で印象に残っている作品を教えてください。

 松本大洋さんの『ピンポン』ですかね。NSCにいたころ、あるオーディション用に相方の田村(裕)とネタを考えて一個出来たので、あとはまだ時間あるし漫画を読もうと手に取ったのが『ピンポン』なんですが、読み始めたら自分の作っているものとの差がすごすぎて、めっちゃショックを受けたんです。こんな硬派でおもろいものがあるんだなと感動し、その時作っていたネタを捨てて、すごく攻めたコントを一から作り直して相方に見せたら「これどういう意味?」って聞かれたんですが、自分なりに『ピンポン』をライバル視したような中で思いついたネタだったんですよ。若いからやったことなんですけどね。そのネタでオーディションに合格したので、すごく覚えていますし「ここまでがネタのボーダーライン」というのを自分の中で作った漫画でもあります。

 一番影響を受けたのは『あしたのジョー』(高森朝雄原作、ちばてつや画)です。主人公の矢吹丈が完璧じゃないと言うか、漫画の中でも矢吹は強さでいったら4位ぐらいなんですよ。苦労もあるし、戦っても勝てない相手もいる。それでも、結局ボクシングから逃げられないんだという状況がすごくリアルで、僕も若手のころ、お笑いや漫才が好きで芸人を目指したけど、やっぱり漫才をやるのが嫌になる時もあるんです。だけど、漫才で凹んだことは漫才で返すしかないんだなとやり続けてきました。タグ大喜利のような新しい分野にも挑戦しつつ、これからも漫才を続けていきたいです。