1. HOME
  2. コラム
  3. 大好きだった
  4. 岡崎琢磨さんに音楽の原初体験を与えたDEEN CD収録曲すべての歌詞を丸暗記

岡崎琢磨さんに音楽の原初体験を与えたDEEN CD収録曲すべての歌詞を丸暗記

 三十歳のころ、同い年の知人から「人生でCDを一枚しか買ったことがない」と聞いて目が点になったことがある。

 いまの若い人ならめずらしくもないだろう。私は、自分がCD世代であることを信じて疑わなかった。初めてCDを購入したのは、七歳のときである。

 当時の私は開幕したばかりのJリーグに夢中で、テレビのサッカー中継のエンディングテーマに使われていたDEENの「翼を広げて」という曲が好きだった。バラード調の曲に合わせて試合のハイライトが流れるさまを、よく真似したものだ。

 年が明け、ポカリスエットのCMで「瞳そらさないで」という曲を聴いた私は、「翼を広げて」と同じアーティストだと知って、このDEENというグループが好きなのだなと自覚しCDの購入を決意した。母方の実家に帰省中だったのか、電話で父にCDを買っておいてくれと照れながら頼んだことを憶えている。

 姉がいた影響もあり、CDそのものはめずらしくもなかったが、生まれて初めて自分のお金(お年玉だったと思う)で購入した八センチのシングルCDは宝物のようだった。その「瞳そらさないで」を皮切りに、私はDEENのCDを集め、すべての収録曲の歌詞を丸暗記するほど聴き込んだ。人並み以上に音楽好きの子供だったと言えよう。

 DEENが「未来のために」という曲でオリコン一位を獲った際、私はミュージックステーションで毎週放送されていたCDセールスランキングを楽しみに待った。ところがその週だけ、ランキングの放送がなかった。私はDEENに対する扱いが不当だと、ブラウン管の前で激怒した。よもやそんな少年が日本の片隅にいようとは、当時のMステのスタッフも想像だにしなかったに違いない。

 小学生のうちにMr.ChildrenやB'zにもはまった私は、中学生になるとギターを弾き始め、高校からはバンド活動に明け暮れ、音楽の道を志すようになった。音楽の趣味は変遷し、DEENは追わなくなってしまったが、いまでも手元にアルバムCDがあるし、音楽の原初体験がDEENだった事実は変わらない。

 つい先日、ネットでDEENのボーカルの池森秀一さんのインタビューを読んだ。突然デビューが決まり、大ヒットして、戸惑いながらもひたむきに歌っていたことを回想していた。二十五年以上が過ぎ、音楽好きの少年は小説家になり、DEENはいまも現役で活動を続けている。私も若い人に読まれながら息長く活動していけたらいいな、と思った。