1. HOME
  2. コラム
  3. 心細さ寄せて、LINE連句で繋がる 歌人・東直子さん寄稿

心細さ寄せて、LINE連句で繋がる 歌人・東直子さん寄稿

「LINE連句」の冒頭のひとこま。参加した12人の歌人のうち、小島なお、小佐野彈、カン・ハンナ、東直子の4氏がやりとりした場面

 新型コロナウイルス感染拡大の影響、というフレーズを何度読んだことか、書いたことか。俄(にわか)に信じがたいほどの多大な影響を世界中の人々が受けた。

 歌会、批評会、シンポジウム、吟行会など、短歌の活動を続けていると、人と会う機会が頻繁にあるのだが、すべて封じられてしまった。創作は基本的には個人で行うものだが、刺激しあうことで新しい作品が生まれてくる面も否めない。もう少し平たい見方をすると、歌人は人見知りで淋(さみ)しがりやな人が多く、気心が知れた人とはとことん感想を交わしあい、作品を共有したくて仕方がないのだ。

 そこで、「Zoom」など、これまで存在さえ知らなかったソフトも駆使しつつ、オンライン歌会や連句などを行った。オンラインで行うことによって、これまで参加しにくかった子育て中や遠方の人が参加できるメリットもあり、新鮮な楽しさを味わえた。自粛要請された閉塞(へいそく)感のある状況下ということもあって、寒風から逃れて暖炉の火を囲むように、心細い気持ちを寄せあっていたようだった。

 例えば、本来参加者である連衆(れんじゅう)が集まって五七五と七七のフレーズを繋(つな)げて共同で作りあげる連句は、緊急事態宣言が出された直後、LINEグループを活用してすべてをリモートで巻いた。私が捌(さば)きを担当したのだが、福岡や台湾からの参加者もいて、計12人が離れた場所から言葉で一つの架空の世界を共有するのは、とてもわくわくした。

 二週間かけて巻いた三十六歌仙の最後の句となる挙句(あげく)は、千葉聡さんの「陽炎(かげろう)の辻でまた会いましょう」。「陽炎」という春の季語が、現実と非現実の間を漂う私たちの出会いを象徴していたと思う。何人もの人の心身を通過した言葉が連なり、記憶を刺激し、想像を広げることで世界の豊かさや面白さを再認識でき、新たなエネルギーを得た気がする。詳細な記録は「短歌研究」6月号と7月号に掲載された。

 文明の利器を駆使したグローバル化が疫病の拡大をもたらしたが、一方では、文明の利器によって人々がこの不自由な世界に新しい繋がりを得ようとしている。物理的な距離が求められる中で、ヴァーチャル世界の距離は縮まった。言葉は、ヴァーチャル世界を自在に往来できるということを実感した期間でもあった。泥縄的に普及したオンラインツールだが、都市に集中していた文化形式のアンチテーゼとして今後も可能性を広げていくことだろう。=朝日新聞2020年7月1日掲載