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笠井千晶さん「家族写真」インタビュー 遺された家族、死者想いながら生きる、福島・南相馬の記録出版

著書『家族写真』を出した笠井千晶さん=本人提供

 災害で多くの家族を一度に失った悲しみと、人はどう向き合うのか――。ドキュメンタリー監督の笠井千晶さん(45)は、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県南相馬市の家族とともに過ごした記録となる著書『家族写真』(小学館)を出した。

 被災地に殺到するメディアへの不信から「初対面では怒鳴られました」。笠井さんは震災の年、南相馬市で8歳の長女と3歳の長男、両親を津波で失った上野敬幸さんと出会った。原発事故により、福島県の沿岸部の多くは立ち入りが困難で、津波犠牲者の捜索活動も制限されていた。上野さんは同じ年に生まれた娘を育てながら、地元消防団の仲間と自力での捜索を試み、被災した集落で菜の花畑づくりや追悼の打ち上げ花火に力を入れていた。

 「生き遺(のこ)った人々は、死者を想(おも)うからこそ生きていける」(同書プロローグ)。何度も足を運び、話を聞くうちにそう考えるようになった笠井さんは、上野さん一家の姿を映画「Life 生きてゆく」(2017年)にまとめた。東京電力社内も含め、これまでに100回超の上映会を各地で開いてきた。撮り続けた映像は600時間近くになるが、「その数十倍の時間を、私はカメラを回すことなく福島の家族と共に過ごしてきた」と振り返る。

 映像からの書き起こしを含めた大量の取材ノートをもとに執筆した原稿は昨年、未発表作が対象の小学館ノンフィクション大賞を受賞した。

 静岡放送(静岡市)と中京テレビ(名古屋市)の報道現場に計15年身を置き、被災地の取材を続けたいと2015年に独立。浜松市に居を定め、死刑確定後も無実を訴え、再審を求める袴田巌(いわお)さんの取材を続ける。次の映像作品のテーマだと心に決めている。(大内悟史)=朝日新聞2020年7月1日掲載