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小笠原正勝『映画と演劇 ポスターデザインワークの50年」 たった1枚でドラマを「表現」

『映画と演劇 ポスターデザインワークの50年』から

 映画や演劇の公開に合わせて貼られるポスター。たった1枚で、ドラマを「表現」する難しいジャンルだ。著者はそのデザイナーとして第一線で活躍してきた。中でも、スタート時から伴走したフランス映画社のBOWシリーズでの仕事は圧巻。ゴダール、ヴェンダース、ジャームッシュなど新しい外国映画のテンションを、同時代人として見事にデザインした。映画の新聞広告も一部収録。もはや職人技ともいうべき世界だ。本書は昭和後半の活気あふれる状況を後世に残す、ポスターから見た「映画史」であるともいえるだろう。

 デザインに至る作業を「野良犬のように動きまわる、徒労とも思えるような私の行動」と語る。脚本を読み、スタッフと語り、時に撮影に立ち会い、試写で映画と向き合う。印刷所とのやりとりも楽しむ。現場を大事にする姿勢は今も変わっていないという。

 本書は、巷(ちまた)にあふれる懐古的なデザイン本とは全く違う。ロードショーはとっくに過ぎてるのに、みずみずしい。そう、今でも我々を映画に誘っているのだ。=朝日新聞2020年7月4日掲載