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「NEO ECONOMY」書評 無形資産の時代にどう向き合う

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2020年07月25日
NEO ECONOMY 世界の知性が挑む経済の謎 著者:日本経済新聞社 出版社:日経BP日本経済新聞出版本部 ジャンル:経済

ISBN: 9784532358525
発売⽇: 2020/05/25
サイズ: 19cm/277p

NEO ECONOMY(ネオ・エコノミー) 世界の知性が挑む経済の謎 [編]日本経済新聞社

 富を生みだす主役が、有形のモノから、無形の情報に変わった。機械や工場から、知識やデータに変わったのである。本書はそれら無数の変化を概観する。時代の風景を一枚に写すパノラマショットのように。
 モノと情報の大きな違いは、複製のしやすさにある。たとえば新聞紙はモノだが、これと同じモノを作るには工場が必要だ。だが新聞紙の記事にある情報は、書き写せば誰でも複製できる。インターネットに書き込めば、ほぼコスト無しで拡散できもする。しかも質の変化なく。
 複製しやすいものは、されていく。アイデアは模倣され、知識は共有され、データはコピーされる。希少性が下がるから、無形資産の陳腐化は早い。ある調査によると、有形資産の価値は1年で4%減るだけだが、無形資産は20%減るという。だから企業が価値を保つためには、無形資産を生みだせる人材に大金を投じねばならない。それが出来ない人材との差は開く。
 それでもIT化が社会に与える価値は凄まじい。例えばいまや定番のコミュニケーションツールとなったLINE。これはスマホを持っていれば誰でも無料で使える。「いくらもらえたらLINEを1年間やめますか」を尋ねた調査によると、平均して300万円となったそうだ。この価値はGDPにはカウントされない。豊かさを計測する新たな指標が必要だと、多くの論者が指摘する。
 電話は5千万人のユーザーを獲得するのに50年かかったが、ツイッターは2年だった。モノを所有するのではなく、サービスを利用する形態の消費は急増している。自家用車を所有する習慣は、遠からず廃れるだろう。凄まじい速さで社会は変わっている。このほとんど抗(あらが)いようのない流れに、自分はどう向き合うのか。本書はその思考のための情報を存分に与えてくれる。情報は共有されると希少性が下がるが、質に変化がないのは幸いである。
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日本経済新聞経済部の記者14人の取材班による同名の連載記事(2019年2~12月)をもとに編集した。