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「へんなものみっけ!」で知る、博物館スタッフ 生きた証を残して、未来へ命つなげる

文:佐藤直子

 博物館に展示されている動物や魚、鳥、昆虫、植物、鉱物、化石などの標本はいったいどこからやってきたものなのか・・・・・・。博物館の知られざるバックヤードを、博物館事務員の視点から紹介するのが『へんなものみっけ!』(早良朋、小学館)です。

 市役所から博物館の事務員に出向になった、主人公の薄井透。コストの計算や、館のメンテナンスを担当し、ムダを省くことに使命感を燃やす一方で、どこか平凡な自分に嫌気がさしています。そんな薄井を刺激するのが、ひとクセもふたクセもある博物館の研究者たち。薄井の働く博物館では、鳥や海洋生物、昆虫、植物、鉱物などを専門分野とする研究者が、標本の作成や収集、整理、そして傷みの修復を行っています。博物館にある標本資料をわかりやすく展示し、来館者に動物や植物の生態や習性を知るきっかけを作っているのです。

©早良朋/小学館「月刊!スピリッツ」連載中

 薄井がまず衝撃を受けたのは、解剖室や冷凍庫に数え切れないほどの動物の死骸を保管していること。驚いている薄井に、「種類や数が多いほど、気候変動や環境汚染による生物への変化や進化を確認できるし、私たちができることが見つかるかもしれない」と説くのは、清棲あかりです。清棲は動物の骨を宝物にしていた子ども時代、何もしなければ土に返ってしまう死骸を剥製にして保管すれば、生きていた証として残すことができることに感動し、博物館で働くことを目指した鳥類研究者。早朝から鳥の声や姿、種類や数を確認しながら出勤し、嵐の後の鳥の死骸を探しにいったり、フクロウのヒナを探して5日間巣を見張ったりするなど、鳥中心の生活を送っています。

 海洋生物研究者の鳴門律子は、海に住む生き物に魅せられた一人です。波打ち際に生息する生物を観察する磯調査がライフワークで、時には子どもたちと一緒にタコを見つけたり、自分で体を切って分裂し増殖するヒトデについて解説したりして、子どもの知的好奇心や教養を磨く手伝いをしています。

©早良朋/小学館「月刊!スピリッツ」連載中

 ある日、漁港に揚がったアンコウを使って魚のサンプリングを行うというので、薄井も立ち会うことに。アンコウの体がふくらむまで水を入れ、勢いよく踏み、魚を吐かせ、海底にどんな魚が生息しているかを調べるという突拍子もない方法に、みな啞然とするばかり。そんな鳴門が研究者になったのは、海岸に近づいて打ち上げられ死んでしまうクジラの謎の死を解明したいという思いがあったから。鳴門に共感した薄井は、3年前に埋められたクジラの骨格を発掘することを提案します。その大きさのため、時間や手間、人出、お金もかかるとあきらめていたところ、薄井が手腕を発揮して助成金を受けられることが決まり、博物館の研究者やスタッフ、子どもやボランティアも総出で、100パーツ以上の骨格を掘り出すことに成功します。

 自然界で起こっているミステリーの謎を解くのに、生き物の死骸は貴重な情報を秘めています。生きていた証を一つでも多く残そうと研究者たちは時に山へ、時には海へと「へんなもの」を求めておもむき、奮闘しています。薄井曰く、研究者は「大人になっても何かに執着しているユニークな人たち」なのだとか。好きなことを日々追究する彼らをうらやましくも思う薄井ですが、サポートを続けるうちに博物館になくてはならない存在になる日も近いのかもしれません。

「へんなものみっけ!」で知る、博物館あるある!?

  • 博物館には事件の犯人の遺留品や被害者に残された土、砂、植物などわずかな痕跡を頼りに研究者に調べてほしいと警察がくることがある。種類や所属を見分けるため、博物館の標本すべてが比較資料になり得る
  • 標本を食べる害虫は「ミュージアムビートル」と呼ばれ、侵入ルートを徹底的に調査し、原因となるものはすべて駆除される
  • 捕獲し、保護した動物の様子によっては、泊まり込みで世話をすることがある
  • 研究者が集まるとマニアックな話ばかりになる。カツオの縞模様は興奮すると向きが変わるとか、飛びイカの飛行距離は50メートルにもなるとか、研究者はまるで動く図鑑
  • 花見には担当員が馴染みの猟師に肉をわけてもらったり、海の調査で余った魚介や海外出張先の珍酒、珍味を持ち寄ったりするので、豪華になる。南極の氷で飲み物を飲むことも
  • 無人島調査で釣った魚をさばいたり、自炊キャンプしたりすることがあるので研究者は料理上手が多い