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テレビからYouTubeやSNS、絵本に展開! 民放初の赤ちゃん向け番組「シナぷしゅ」でぷしゅっと脱力

文:日下淳子、写真:斉藤順子

赤ちゃんにはテレビを見せない方がいい?

――民間の放送局では初となる「赤ちゃん向け番組」が、この4月から始まった。歌やダンス、絵本やアニメーションなど、乳幼児の好奇心を引き出すようなコンテンツが印象的。番組プロデューサーの飯田佳奈子さんが、子育て経験のあるスタッフを募り、専門家や育児経験者から意見をもらいながらできた0~2歳児向け番組が「シナぷしゅ」だ。もともとテレビ東京の営業局に配属されていた飯田さんの、初のプロデュース番組となる。

 番組を立ち上げたきっかけは、2年前に出産を経験したことです。私自身が子どもに見せたいと思うもの、そして親が見せて安心できる番組を作りたいと思いました。

 実は子どもを産む前は、親というものがよくわかってなくて、乳児虐待のニュースを見ても、なんでこんなひどいことをするのか理解できなかったんです。でも実際に子どもを産んだら、子育てって楽しいことばかりではなくて、どんなに子どもがかわいくても、親が追い込まれるシーンというのがどうしてもあるのだなと感じました。虐待には至らなくても、昼夜のない生活が続き、替わりはいないのに責任だけは重くて、祖父母世代からは「子育てはこういうもの」とたしなめられ、1対1の子育てがどんどん苦しくなっていく。そういうとき、テレビや動画に助けられることってたくさんあります。

 でも親になると、「赤ちゃんにテレビは見せない方がいい」といった情報がすごく入ってきて、私も子どもをテレビから遠ざけた方がいいのではと悩みました。ただ、デジタルが溢れかえるいまの時代、スマホで動画を見せている親御さんは多いですよね。病院の待合室で静かにさせるときなど、玉石混合のコンテンツの中から、必死に子ども向け動画を検索している。それなら私が「赤ちゃんにも良質なコンテンツを作ろう」と思いました。

――そこから企画書を書き、絵本『もいもい』を手掛けたことで知られる、東京大学赤ちゃんラボに番組監修を依頼。キャラクターの「ぷしゅぷしゅ」がかわいく動くアニメーションから始まり、落ちてくる動物たちの鳴き声を楽しむ「どうぶつ落っちんぐ」や、ぬいぐるみがいろんなものを連結させていく「がっしゃん」など、人気のコーナーが立ち上がった。

【赤ちゃんが泣きやむ】シナぷしゅ公式20/05/04~05/08まとめ【東大赤ちゃんラボ監修!知育】

 制作コンセプトとして、視聴者をただ子ども扱いするのでなく、赤ちゃんの可能性を広げる内容になるよう心掛けています。いろんな国の言葉で「いないいないばあ」をしたり、あいうえおの歌もあります。最近の親御さんたちは知育に敏感ですが、「シナぷしゅ」では、これを勉強とは考えていません。意味がわからなくても、外国語の音を聞いて耳の可動域を広げたり、少し背伸びしたコンテンツに接することで、楽しく毎日聞いている間に興味への伸びしろが増えているような状況が一番いいと思っています。

 0~5歳ぐらいは、脳の神経細胞をつなぐ「シナプス」がどんどん増えてつながって、感性が豊かになる時期なのだそうです。監修をお願いした東京大学の開一夫教授も、好奇心を刺激するようなご提案を数多くくださって、番組では、開教授作詞の赤ちゃん向けラップ「上々」を放送したり、9月からは「むかーしむかし……」ではなく「みらーいみらい……」と語りかける、未来のおはなしも始まるんですよ。

作り手との距離が近いコンテンツを

――テレビと連動して、YouTubeに「シナぷしゅ」の公式チャンネルも作った。その日の放送やコーナーごとのまとめ画像などが、いつでも見られるようになっている。SNSやnoteでの番組情報を展開する他、7月には絵本『みんなでシナぷしゅ』(世界文化社)も発売された。

 絵本には、初期からやっているメインのコーナーがたくさん入っています。はじめて絵本ができて息子に見せたときは、この平面の絵が、テレビで見ているのと同じものと捉えてくれるのかな、とドキドキしました。でもちゃんと反応してくれて。息子はキャラクターがかくれんぼしているページが好きで、毎回嬉しそうに「ここ!」って見せにくるんですよ。親からすると、一回見ればどこに隠れているかわかるだろうと思うんですけど(笑)、子どもって不思議ですね。

 絵本はテレビと違って、いろんなところに持ち運びができますし、いろんな角度でコンテンツに触れることで、視点が豊かになるように思いました。それに子どもは、画面を見ていてもやっぱり自分の手で触りたいんですよ。子どもが自分で持って、めくって、自分のペースで展開できるのが、絵本ならではと感じました。

『みんなでシナぷしゅ』(世界文化社)より

 テレビ番組だけを見ると「誰かが作ったものを見せられている」という意識になりがちなのですが、私たち制作側が手の届く存在であり続けることも大事なことだと思っています。公式ツイッターやインスタグラムといったSNSでも、番組を見た親御さんたちが細やかな感想や意見をくださいます。一方通行にならないよう、精一杯その声に応えていきたいですね。「シナぷしゅ」は、子どもとコミュニケーションを取るきっかけになる番組というだけでなく、一緒に見ている親御さんも肩の力が抜けるようなものを作りたいと思っているんです。視聴者も含めて、育児をしている人、育児に関わっている人みんなで、この「シナぷしゅ」を育てていってくれたら嬉しいです。