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遠い空の下 柴崎友香

 四年前にアメリカのアイオワ大学で参加した世界各国の作家たちと過ごすプログラムの同窓会が、先週あった。と言っても、今の状況なので、オンラインの画面越しだ。二時間で十八人が参加した。時差があるので、アイオワは朝だが、東京のわたしは夜、日付けが変わる時間だった。

 呼びかけてくれたのは、エチオピア人で今はロンドンに住む若い詩人。アイオワでもSNSを使いこなし参加者たちの交流を円滑にしてくれたが、今回も快活な進行役だった。オンライン上なので一人ずつ近況を報告する形になったが、久しぶりに顔が見られたのはやはり楽しかった。そのうち二人は最近子供が生まれて、赤ちゃんも登場してくれた。

 新型コロナの陽性になった人も二人いた。どの国でも、外出の制限があったり、仕事(多くの人は教師やジャーナリストなどの仕事もしている)でも変化を余儀なくされていたり、なにかしら影響を受けていた。外国の文学祭や滞在創作に参加する日々を送っていた人たちも、今はほぼ自分の町から出られない。

 時差からも実感できるくらい遠くの、地球の裏側みたいな場所で、気候や国の事情も違うところで、みんなが同じウイルスによって困難の中にいる。こんなことは、少なくとも自分が知る限りでは初めての経験だ。

 その困難や混乱から社会の不平等や政治への不信が顕在化したのか、デモや社会運動も各国で起こっていた。アイオワで知り合わなければ、こうしてそれぞれの国の事情を知ることはなかったかもしれない。

 ほとんどの作家は自宅の部屋で話していたが、新型コロナで入院中の一人は、病院から数分だけ話してくれた。回復を祈るばかりだ。

 ナイジェリアの詩人は、屋外にいた。家の前から、映像をつないだまま歩いていって、空や木々が映った。それがどこかわからなかったし、彼もなにも説明しなかった。分割された画面の真ん中に小さく開いた青空を、わたしは真夜中の東京で見つめていた。=朝日新聞2020年9月9日掲載