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都甲幸治さん『「街小説」読みくらべ』インタビュー 異境の出会いに作品重ね

 アメリカ文学を訳し、教える傍ら世界文学の紹介にいそしんできた。そんなプロの「読み屋」が、自身にゆかりのある八つの街を取り上げ、そこにまつわる文学作品を読む。街歩きエッセーと文芸評論が一体となった新感覚の一冊だ。

 福岡県生まれだが、父親の転勤であちこちに暮らした。中高時代を過ごしたのは金沢。東京の言葉で話しても相手にしてもらえず、「これはまずいぞ」。金沢弁をほとんど外国語のように身につけた。室生犀星や古井由吉の文学を読み解きながら、雪と低い空に閉じ込められていた青春時代が思い出されていく。

 そして大学院の3年間を過ごしたロサンゼルス。英語を話せない者は「いないこと」にされる異国で、これまでの自分が「一度死んだ」。机を並べたマイノリティーの仲間たちに刺激を受け、同じ白人に見えるユダヤ人が疎外感を抱いているのも知った。だから、ジェームズ・M・ケインの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』で、より白人に近づこうとする人たちの悲痛さが肌で分かる。

 鋭い文学評論も顔をのぞかす。例えば早稲田の章で読み解く坪内逍遥の『当世書生気質』。外来語をまじえたダジャレやオノマトペはまるで21世紀の移民文学ではないか。「そのあと日本文学は単一言語主義になっていくので、あまり高く評価されなかったんです」。性の境界を越えていく鷗外はひょっとして漱石よりも「今っぽい」んじゃないか。日本文学史の公式見解が「アメリカ文学を通った目」で覆されていく。

 人生の一幕一幕が、今の自分につながっていると感じる。「異なるものに出会った時にどう翻訳して、誤解をしつつも理解し合っていくか。そういうことを外国文学者になっても続けているんでしょう」。感傷的で知的で、贈り物のような本だ。(文・板垣麻衣子 写真は本人提供)=朝日新聞2020年9月12日掲載