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第33回三島由紀夫賞と山本周五郎賞を振り返る 高橋源一郎さん、今野敏さんが講評

宇佐見りんさん(左)、早見和真さん

三島賞・宇佐見さん 「輝かしい才能」言葉遣い独特

 三島賞は候補5作ともに高い評価があり、選考委員の高橋源一郎さんは「冗談で『5作受賞』みたいな話も一瞬出たぐらい。正直、選考は難航しました」と振り返った。最初の投票で票が入った河崎秋子さん『土に贖(あがな)う』、『かか』、崔実(チェシル)さん「pray human」の3作に絞って議論を重ね、「最終的には、宇佐見りんという輝かしい才能を全員一致で推して受賞作とした」と述べた。

 『かか』は、心を病んだ母親と19歳の娘の複雑な心情を、作中で「かか弁」とする独特の言葉遣いでつづった点も、「極めて評価が高かった。女性の一人称の語りは現代文学の潮流。そのなかにあって、やはり新しい」。宇佐見さんは21歳で最年少受賞。受賞作は昨年、公募の文芸賞を受けたデビュー作で、高橋さんは「これが新人賞として出てきたのが信じられないほどの力を感じさせた。後生畏(おそ)るべし」と太鼓判を押した。

山本賞・早見さん 「群抜いた情念、非常な工夫」

 一方で、山本賞は最初の投票から「ほぼ満場一致」だったと、選考委員の今野敏さんは語った。競馬が題材の受賞作は「馬に焦点を当てることによって、ともすれば平坦(へいたん)になりがちな人間関係を際立たせるテクニックと、作者の情念が群を抜いていた」。結末を成績表で終わらせる手法も、「これ以上の表現が見つからなかった。早見君の非常な工夫であるし、発明だったと思います」とたたえた。

 早見さんは2008年にデビューし、山本賞への候補入りは、15年に日本推理作家協会賞を受けた『イノセント・デイズ』以来、2度目だった。受賞作を2回読んだという今野さんは、「読めば読むほど感動が積み重なっていく。2回目の途中からは、ほとんど泣きっぱなしでした」と語った。

 次点は、寺地はるなさん『夜が暗いとはかぎらない』。「物語の密度が非常に濃くて、それぞれの連作をトータルで見たときに大きな感動がある」との評価だった。

 選考会は例年5月に開かれるが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていた。選考委員のうち、三島賞は多和田葉子さんと中村文則さん、山本賞は伊坂幸太郎さんがリモートでの参加だった。(山崎聡、興野優平)=朝日新聞2020年9月23日掲載