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定番ボードゲームのクトゥルー版を遊んでみた②「パンデミック クトゥルフの呼び声」 好書好日ボドゲ部

 「パンデミック」はコロナ禍でにわかに注目されたボードゲームです。世界中に拡散する4種の伝染性ウイルスをプレイヤー同士が協力して根絶するゲームで、「協力型ゲーム」の代表作として2008年の発売以来、世界中で遊ばれています。作者は米国のデザイナー、マット・リーコック。このシステムを利用した派生作品が数多く生まれており、「クトゥルフの呼び声」もその一つです。こちらはウイルスの根絶ではなく、太古の地球の支配者・クトゥルフが覚醒する前に「邪教の信徒」たちが現れる4つの街(アーカム、インスマス、キングスポート、ダンウィッチ)のゲートを封鎖することが目的です。ただし敗北条件は多く、とりわけ「プレイヤー全員が狂気状態になる」といった負け方はいかにもクトゥルーぽいです。

 「ラヴクラフト・レター」に引き続き、好書好日と、きょうだいサイトの「telling,」「GLOBE+」「かがみよかがみ」の編集部有志が参加します。

>定番ボードゲームのクトゥルー版を遊んでみた①「ラブクラフト・レター」はこちら

ルール説明(インスト)

 カードやコマなどゲームパーツが多く、ルールもそれなりに煩雑ですが、プレイヤーがやることは限られています。自分の手番で4回まで行動した後、カードを2枚引いて手札に入れ、ボード上の「召喚カード」を引いて盤面を変化させたら、次のプレイヤーへ。行動とは①街中のマスの移動②「邪教の信徒」の撃退③プレイヤー同士のカードのやりとり④ゲートの封印、の4種です。同じ行動を複数回選んでもかまいません。ゲームが進むほどに盤面の深刻さは増していくため、プレイヤー同士が会話しながら、常に最適解を探していかなければ勝利はおぼつきません。

いざ、邪教の信徒が闊歩する街へ

 ゲームのプレイヤーは「探索者」と呼ばれます。今回は4人プレイ。それぞれが特殊能力を持った職業を担います。7枚ある探索者カードから4枚をランダムに選びます。今回は、手番中に1回多い5回の行動ができる「医師」のほか「探偵」「隠秘学者」「ドライバー」に決まりました。初期手札はそれぞれ2枚。たいていは4つの街のどれかの名前が書かれており、同じカードを5枚集めて街にあるゲートのマスに到着することで封鎖できます。ただし手札の上限は7枚なので、やりくりが必要です。カードのやりとりは基本的に同じマスにいなければできないので、マスを移動しながら、誰かに同じカードを集中させることを目指します。一方、盤面には開始早々あちこちに信徒が現れています。信徒が増えすぎると、クトゥルフが覚醒しなくても敗北することがあります。なので街中を移動する際は適宜、信徒を撃退することも念頭に入れなければいけません。

コミュニケーションが大事

 いよいよゲームスタートです。4人とも初プレイ。まずはそれぞれの特殊能力を生かした協力方針を定めました。ゲート封鎖に必要なカードが1枚少ない4枚で済む「探偵」にカードを集めるため、通常1コマずつしか進めない移動で最大2コマまで進める「ドライバー」が宅配便よろしく他のプレイヤーから必要なカードを受け取って探偵に届ける。残る2人は信徒撃退を軸に行動する……。序盤は方針通り、カードのやりとりに重点を置きますが、手番が進むたび信徒が増えていくので、「これ倒しておいたほうがいいのかな」などと手探りで進みます。ドライバーの「telling,」M君は「僕は歩くだけの人ですから」と言いながら、カードの配達業務にいそしみます。

 中盤から、このゲームの悩ましさに気づき始めます。クトゥルー神話がテーマのゲームでおなじみの「正気度チェック」がしばしば発生するのです。たとえば、信徒とは別に盤面でうろうろしている中ボス「ショゴス」と同じマスに入るとチェック発生。ダイスをふり、その結果で「正気度トークン」を失います。開始時に持っている4つのトークンをすべて失うと、「狂気状態」になり特殊能力に制限がかかります。ドライバーなら、「2コマまで」進める能力が「必ず2コマ」進むことを強制されるのです。そこで、「GLOBE+」Hさんの「隠秘学者」の出番です。ショゴスを1コマ移動させる能力を使い、ドライバーを危険から遠ざけるようにさばいていきます。

果たして勝てるのか、緊迫の終盤

 しかし、このゲームの本当の恐怖はここから。手札のカードを引く際、一定の確率で「邪悪の胎動」というカードが出てきます(1ゲームに最大4回)。これが悪夢への一歩です。このカードが出ると、クトゥルー覚醒の時間が早まるほか、アザトース、イタクァといった「オールド・ワン」なる邪悪な存在が現れて、プレイヤーに必ず良くないことが起きます。加えて引いたプレーヤーは正気度チェック、さらにショゴスがもう一体出てきます。4体めのショゴスが盤面に出るのも敗北条件です。移動の多いドライバーのM君は、ただでさえチェックにひっかかりやすいうえ、「邪悪の胎動」を引いてしまい、ダイス運にも見放されて「狂気状態」に。1コマ移動なら同じマスに入れて渡せたはずのカードが手番内に渡せません。

 終盤は様々な敗北条件に近づく局面となり、1回の行動が重要な意味を持ってきます。詰将棋を解くかのごとく、みなが盤面をにらみながら念入りにコミュニケーションをとり、一手一手進めていきます。手札を補充するカードが引けなくなっても負け。なのに山札は残り6枚。つまり残り3手番内にゲートを封鎖しきらないと敗北です。6枚の中には「邪悪の胎動」が1枚残っていることも分かっています。

 ゲート封鎖のためのカードはそろっており、あとは最後の未封鎖ゲートにたどりつくだけ。「邪悪の胎動」をひかず、次のプレーヤーに手番が回れば封鎖できる局面で、M君がひいたカードは「邪悪の胎動」…ではありませんでした。最後のゲートを封鎖して、ミッションコンプリート。いっせいに、安堵の声があがりました。

 残った山札をみると1枚目が「邪悪の胎動」。まさにぎりぎりの勝利で、4人の表情は達成感に満ちていました。ちなみに今回はセッティングで「邪悪の胎動」が出る確率を低めにした「入門ゲーム」。激むずと思われる「上級」だと、よりクトゥルフ覚醒の恐怖を味わえると思います。

>定番ボードゲームのクトゥルー版を遊んでみた①「ラブクラフト・レター」はこちら

【クトゥルー神話の豊潤な世界】

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③海野なまこ「クトゥルフ様が めっちゃ雑に教えてくれる クトゥルフ神話用語辞典」インタビュー

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