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「これからの時代を生き抜くための生物学入門」書評 大絶滅の先に人間は存在するか

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2020年10月24日
これからの時代を生き抜くための生物学入門 著者:五箇公一 出版社:辰巳出版 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784777820542
発売⽇: 2020/09/01
サイズ: 19cm/253p

これからの時代を生き抜くための生物学入門 [著]五箇公一

 ノロノロとしか動けないカタツムリ。「一生懸命移動しても出会った相手が同性だったときのガッカリ感というか、ダメージは絶大」。なるほど、雌雄同体であることが腑(ふ)に落ちる。
 子どもができた途端に薄くなる父親の存在、草食化した男性についての生物学的な分析。妙に納得感がある解釈にうなずく。
 生物学のエロい話を作ろうと始めたインタビューをもとにした本だというが、人間の異質性や自然との関わりに話が広がっていく。
 外来種は目の敵にされるが、スズメも稲作の到来とともにやってきたらしい。緑豊かな北海道の牧草地は外来種の草原だ。人間は野山に手を入れ維持管理することで自然と共生してきた。手つかずなら日本の山林は暗いブナの森、我々が住むには厳しい。里山の放置は好ましくないが、江戸時代のような状態を求めるのも極端だ。
 考えさせられるのは、人間は自然の一部か、どこまでの行為を自然は許すか。
 いま、人間の営みで生物種の大量絶滅が進む。注意すべきは、それがたいしたことないのか、とても危ないのかさえわからないこと。過去5回の大量絶滅があったが、生物は多様性を取り戻した。きっと次も取り戻せる。ただ、そこに人間がいるかはわからない。
 我々を悩ます感染症を「目に見えない外来生物」ととらえる。その自然の猛威は「野生生物の種の中で、バランスを欠いた増殖を続ける集団」がいれば感染を拡大して個体数を調整する。将来は、本書で議論される利他行動が取れるかにかかっているという。
 終章では、テレビでおなじみのサングラスに黒服の理由も語る。ダニ研究への目覚め、企業で農薬を開発していた時の苦い経験、そして科学研究の姿。ダニ研究の社会に役に立たぬ知見でも、積み重ねがあるから科学は進歩する。生物の一見「無駄じゃね?」という形態にも実は意味があることとも通じそうだ。
    ◇
ごか・こういち 国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長。著書『クワガタムシが語る生物多様性』など。