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森まゆみさん「本とあるく旅」インタビュー 墓や碑から町と人を知る

森まゆみさん=篠塚ようこ撮影

 4月と5月は、コロナ禍で全く外に出られなかった。

 「家の中を掃除したら、私こんなの書いてたんだ、という文章がずいぶん発掘されました。そして昔読んだ本を読み直すと、家で旅ができた感じですごく楽しかったんですよ。また出かけられるようになった時の水先案内になれば、と思って」

 『用事のない旅』『会いにゆく旅』に続き、今度は本と一緒の旅だ。夏目漱石『坊っちゃん』の舞台・松山、石川啄木がいた釧路、樋口一葉の両親の故郷・山梨県塩山、林芙美子が過ごした尾道などを歩いた。

 「まずお墓に行って、お参りに来ている人に話を聞きます。水害や地震などの、いろんな碑を見ます」

 26年続けた地域雑誌「谷中・根津・千駄木」で自分の町を丁寧に見たので、町を見る物差しができた。何を食べ、どんなものを着て、どんな家に住み、何を信じているかだ。

 旅先で出会った本もある。岐阜県揖斐川町で、徳山ダム建設前の暮らしを撮り続けた増山たづ子『すべて写真になる日まで』や、箱入り2巻本の山本泰三『土佐の墓』など。

 「嫌悪感しかなかった」三島由紀夫への見方が変わり、『潮騒』の舞台・三重県神島に行く。栃木県足尾と佐野では「永遠の憧れ」である田中正造の足跡を追った。「崖っぷちで戦う男が好きだから」。戊辰戦争で負けた側の『ある明治人の記録』を携え、会津と下北も訪ねた。

 晩年の森鷗外が帝室博物館総長として、正倉院の虫干しのため奈良に出張した時の簡素な生活を描いた文章には、『鷗外の坂』や『「即興詩人」のイタリア』の著者ならではの共感が込められている。

 今回の本は、戊辰戦争からダム問題までをたどる「近代史の旅」になった、という。そして、格好の「森まゆみ入門」になった。(文・石田祐樹 写真・篠塚ようこ)=朝日新聞2020年10月31日掲載