1. HOME
  2. イベント
  3. 本屋は生きている
  4. 小さな書店が続いていくカギは? 「離島の本屋ふたたび」×「本屋は生きている」トークイベントを開催しました

小さな書店が続いていくカギは? 「離島の本屋ふたたび」×「本屋は生きている」トークイベントを開催しました

文・篠原諄也

島の人のニーズを満たすことと、本屋であることのプライド

 『離島の本屋ふたたび』(ころから刊)は、フリーライターの朴順梨さんが、沖縄、種子島、五島列島など、過疎や少子化に悩む地方の島々にある書店を訪ね歩き、本の文化を絶やすまいと踏ん張る経営者やお客さんとの交流が描かれています。フリーペーパー「LOVE書店!」と、朝日新聞で運営していたウェブサイト「DANRO」の連載に、書き下ろしを加えて出版した書籍です。2013年の前作『離島の本屋』(同)に続く2冊目で、DANROの連載は2020年で終了しましたが、好書好日に舞台を移し、主に首都圏の書店を巡る「本屋は生きている」を連載しています。

 会場のリーディンライティンは、高い天井に梁のある空間が独特の雰囲気を醸し出す、イベント定員約20人の店舗。新型コロナウィルスの感染拡大を受け、会場では関係者のみが観覧し、オンラインで中継されました。

長崎・宇久島で150年の伝統がある「戸田屋書店」(撮影・朴順梨)

 第1部では、朴順梨さんをゲストに迎え、足かけ15年に及ぶ「離島の本屋」取材の裏話を聞きました。長崎・宇久島の「戸田屋書店」と沖縄本島の「麻姑山(まこさん)書房」の例を、写真を見せながら紹介した朴さんは、本土の書店との違いを尋ねられ、次のように話しました。

 「やっぱり首都圏の本屋さんは、ここのリーディンライティンさんもそうですが、店主の『こうしたい』という気持ちをはっきり反映できると思います。他にも本屋さんがあるので『うちに来たい人は来てください』という気持ちを持っても、仕事が成り立つ。けれども島の本屋さんはその島に1軒しかなかったりします。だから島の人のニーズを拾っていかないと、商売が成り立たない部分はあるんですよ」

 離島の本屋は島の人のニーズを満たすため、また安定した売り上げの確保のために、本の販売以外の商いをしていることが多いとのこと。野菜の販売、自転車の修理、コピー機などOA機器のメンテナンスをしている店もあるといいます。戸田屋書店は、食品や雑貨も置き、近くでガソリンスタンドも営んでいることから「ホンがあるコンビニ」=「ホンビニ」と呼ばれていたエピソードを紹介。特に長崎の特産品とも言える、ちゃんぽんのスープの素「ワァン」がよく売れていたそうです。

2014年に訪れた戸田屋書店。本だけでなく、酒や食料品も並ぶ(提供・朴順梨)

 しかし、戸田屋書店はすでに本の販売を終了してしまったとのこと。出版不況、さらにはコロナで外出できない状況も重なり、ただでさえ人口の少ない離島の書店の経営は厳しいのでは――。朴さんは学校指定の教科書や学習参考書などで地元に密着しつつ、他の商売と両立する工夫をしていることを説明しながら、そうした状況でも書店であることのプライドが伝わってくると話していました。

 「みなさんすごく、『本屋であるプライド』というか、本を売っていることに対する気持ちが強いんですよ。どんな商売でもそうなのかもしれないけど、自分が書店主であるという気持ちは、どの方からも強く伝わってきて『売れないから業種替えすればいいや』という簡単な話じゃない、苦渋の決断だったんだと思います。そういう気持ちにさせてくれるものが本なんだと、取材していて思いましたよね」

 空前の大ヒットとなった「鬼滅の刃」は、離島の住民にとっても大きな娯楽であり、島の書店にも大きな恩恵をもたらしたと朴さんは言います。「連載の取材を始めた約15年前には『本屋さんはハードカバーを置いてなきゃ嫌だな』という気持ちがあった」そうですが、「読みたい人がいて、読みたいものが置いてある本屋さんは、全然それでありなんだと、いろんな本屋さんに行ってみてすごく思いました」

第2部に登壇した、(左から)荻原貴男さん、関口竜平さん、司会の笹川ねこさん(撮影・吉野太一郎)

「本屋を、もっと自由に捉えてもいい」

 第2部では、好書好日の連載「本屋は生きている」に登場した首都圏の2人の書店主が、出版不況と言われて久しい今の時代を生き抜くための苦労や意気込みを語り合いました。登壇した荻原貴男さんは群馬県高崎市で「REBEL BOOKS」という書店を経営。連載の第1回に登場した関口竜平さんは、千葉市で「lighthouse」を営んでいます。

 関口さんは、祖父の畑のある土地にDIYで作った店舗で「ざっくり言うと小屋です」と紹介。近所の小学生たちに「秘密基地を見つけたという感覚で」待ち合わせスポットにもなっていると話しました。「本を買うほどのお小遣いは持っていないだろうから」と、冬季限定で10円の駄菓子を販売しているエピソードを紹介。荻原さんも、寿司店だった場所を低予算で改装し「本が利幅が少ない商品であることを少しでもカバーするために」と、ビール、日本酒、コーヒーなどの飲み物、トートバッグ、巾着などのオリジナルグッズを販売するなど、本以外の商品を置く経営努力を披露しました。

関口竜平さんと書店「lighthouse」(撮影・朴順梨)

 司会で、好書好日の姉妹サイト「じんぶん堂」で「#本屋さんの本音」の連載をしているライターの笹川ねこさんから、「本屋さんって静かで落ち着いた空間なんですけど、訴えかけてくる声みたいなものが空間に満ち満ちている。そういう場を作っている店主さんもいろんなお考えがあるのでは」と尋ねられた2人。荻原さんは「個人書店は買えば買うほど、書店側がそのお客さんにカスタマイズされていく。『いいの出ましたよ』『これ入りましたよ』みたいな、書店からのアクションがバンバン返ってくるようになるんじゃないか。それが個人書店で本を買う面白さかもしれないので、ぜひどんどん買ってほしい」。

 関口さんも同調しながら、欲しい本の在庫がなかったらぜひ注文してほしいと話しました。「アマゾンに比べると倍以上の時間かかるので申し訳ないくらいですけど、お店に来てくれる人は気にせずに待ってくれる人のほうが多いんです。本当に遠慮せずに、どんどん注文してほしいです」

荻原貴男さん(撮影・朴順梨)

 最後にトークショーのテーマである「書店が生き残るためには?」という話題に。荻原さんは「難問ですね」としながら、イベント開催など売り上げの柱を本の販売以外で作ること、収入を分散して他の仕事で収入を得ることの2つを挙げました。ご自身はデザインの仕事、さらに子育てをしながらの生活で、休みはほとんどない日々だそうですが、本屋の仕事は「遊んでいるみたいに楽しい」ので苦にはならないとのこと。

 関口さんはその2つは必須だとした上で、本屋をもっと自由に捉えてもいいのでは、と提案しました。「変な言い方ですけど、本が読まれず売れなくなっているんだったら、その分、本屋の営業日数が少なくてもいいんじゃないかと思ってるんです。雑誌が売れなくなって、毎週のように来店していた人たちが来なくなっちゃっている。それで売り上げが上がらないんだったら、来店頻度に合わせた本屋をやればいいんじゃない?と思います」

 小屋でないテナントに近く新店舗をオープン予定の関口さんは「そういう意味では(家賃がかからず営業時間を調整できる)小屋の本屋は、黒字で究極の本屋だった」と言い、「そういう形でやれる人が増えればいいですね。月1回しか開いてないとしても、そういう本屋が地域に30店あったら、毎日開いている。だから本好きの人は、みんな勝手にやれる範囲で本屋をやればいい。そうしたらいろんな種類の本屋ができる。その街はすごい楽しいと思います」と夢を語りました。