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滝沢カレンの「きまぐれロボット」の一歩先へ

撮影:斎藤卓行

とある昔、一人の博士がいた。

その博士は人間だけでは物足らずロボットに執着を持ち、日々ロボットの研究と制作に追われていたのだ。

博士の名は、レンリル。
レンリル博士は村では有名なロボット博士だ。

研究室から出てきた姿を見た人はあまりいない。
いつも山奥の研究室でロボットと向き合っているイメージの男であった。

レンリル博士の噂は村から街へ、街から世界へと知り渡っていったある頃。
レンリル博士のもとに一本の電話がかかってくる。

「はい、もしもし」

軽くフワッと高々した声で電話に出た。

「わたくし、ニードル共和国在住のクリストファー一族に仕えています、ミルネと申します」

明らかにただものではない人物が後ろにいるのだろうとすぐさまレンリル博士は悟った。

「はい。はじめまして。わたしの名前はレンリルと申します」

「噂はかねがね聞いております。こちらでもレンリル博士の話は毎日しております。そして、クリストファー家の長男でございますアレックス様のご希望により、ロボットを購入したくお電話致しました」

「あぁ。でも、わたしはロボットを売っているわけじゃないんですよ」

レンリル博士は物腰がとても柔らかい男だった。
きっとこんな優しいだなんて村の住人は誰も知らないだろう。

レンリル博士がさりげなくおしとやかに断ったのに対し、負けじと仕えのミルネは食らいついた。

「もちろん、そのような制度は重々把握しておりますが。金めに限りはつけません。おっしゃる金額をお支払いしますとのことです。ぜひ一度、そちらに伺ってもよろしいですか?」

押しに弱いレンリル博士は、人間と会話するのも久しぶりで断る術を忘れていたため、「あぁ。では一度見に来てください」とトホホ顔で承諾したのだ。

そして数日後、レンリル博士の元に、クリストファー家が現れた。
その日は、ロボットの購入を熱望しているアレックスと、おそらく電話で話したであろうミルネが来ていた。

もっと一族でやってくると思いきや、2人できたことをレンリル博士は驚いた。

「初めまして。以前ミルネのほうからお電話差し上げました、アレックス・クリストファーと申します。この度は快く承諾してくださりありがとうございます。この日を楽しみにしておりました」

やけにハツラツとした感情を咲かせた男だった。

レンリル博士はふと考えた。

(私はまだ売るなんて一言も言っちゃいないぞ。もしや、このミルネとかいう女が変な風に言ったんじゃないか)

「まぁ、詳しいお話は一旦おいて。なぜロボットがそんなに欲しいのですか?」
レンリル博士は今一度、ロボットをここまでほしがるアレックスに尋ねた。

「博士の噂は私が幼少期から広がっていましてね。大人になったら絶対レンリル博士のロボットがほしいと夢見ていたんです」

「あ、はい」

「まぁこうやって大人になって、改めてロボットと生活をして行きたいな、と思ったんです。だからぜひ、購入させていただきたく思っております」

アレックスの熱意溢れる言葉並びに、レンリル博士は半ば気持ちを曲げて渋々承諾したのだ。
そして前代未聞の、レンリル博士のロボット部屋にアレックスは初めて入室した。

「おぉー!」

レンリル博士のロボット部屋には人間のようにたくさんのロボットがいた。

「長年ロボットを愛しつづけてきた理由が分かりました。だからこそレンリル博士のロボットにはこんなに惹かれるんでしょう」
アレックスは興奮した声出しで、レンリル博士を褒めていった。

「いえいえ。そんなめっそうも御座いません」
レンリル博士もここまで褒められることはない為、喜び方さえ不自然であった。

アレックスは片っ端からロボットの特徴や性格などを聞いて回った。

太陽がオレンジ色の顔になり始めた頃ようやく全ての説明は終わった。

「レンリル博士! 本当に今日は来てよかったよ」
「ならよかったです。お気に召したロボットはいましたか?」とレンリル博士は売るつもりも譲るつもりもなかったが、あまりのアレックスの真剣さにやや惹かれていた。

「いやぁね、ここにいらっしゃるロボットたちも大変素晴らしかったのですが・・・・・・。あの廊下を出て左の部屋にいた、あのロボットはなんですか? さっきトイレに行こうと思ったときたまたま扉が開いていて・・・・・・つい」

絵:岡田千晶

「え・・・・・・」

レンリル博士は言葉の出入り口がわからなくなったかのように固まった。

「僕が覗いたときね、あのロボットは本を読んでいてね。なんだかふと人間に見えたような気さえしたんだ」

確かに、アレックスがみたロボットは限りなく人間に近かった。

「あれは、やめたほうがいいですよ。全くの聞き分けの悪いロボットでね。なんというか、僕の失敗作・・・・・・というか、僕の珍作というか・・・・・・とにかくあれはやめた方がアレックス様のためです」

レンリル博士は急に早口になり言葉数が増えた。

そんな様子にアレックスはさぞかし興味が増したのだ。
「それこそ、ロボットだ。僕はありふれたロボットを探しに来たのではないのです。レンリル博士ならではのロボットを探しにきたのです」

「いや、でも、本当にあれは・・・・・・」
明らかに、あと一言が出ない様子なレンリル博士。

「お願いします。あのロボットを僕に売ってください」
アレックスの頭を下げる姿にレンリル博士はもうあの字も出なかった。

「わかりました。頭を上げてください。ただあのロボットは売ることはできません。せめてレンタルという形で手を打ってくれませんか?」

「レンタル?」

「はい。きっと気にいる気に入らないなどもあるとおもいますので。レンタルという形で取り引きお願いしたいんです。どうか、この通り」

今度はレンリル博士が深々と頭を下げた。

「分かりました」
アレックスは渋々承諾した。

「期限はとりあえず一か月でお願いします。延長は可能です。きっとその一か月で分かります」

アレックスは少々無理矢理な契約内容を飲み込んだ。
そして隣の部屋にいた、ロボット「リリアン」と帰っていた。

レンリル博士は、アレックスの車が見えなくなるまで見送った。

一粒の涙を堪えながら。

それから、アレックスとロボット・リリアンの生活は始まった。

リリアンの見た目は、人間に限りなく近い瞳の色をしていた。
ブラウンにグレーを混ぜたような貴重な色だ。

年齢は30代後半~40歳くらいに見える。
だが肌は綺麗で、優しい顔をしている。

リリアンの性格がレンリル博士からもらった紙に書かれてあった。

家事好き
少々頑固で負けず嫌い
虫が苦手
よく喋る
せっかち

おやすみ、おはようなどの挨拶は必須でお願いします。
ご飯の感想も。

季節の花がとにかく好きです。
咲いてある花の話をしたらしっかり聞いてあげてください。

と書かれてある。

「なんだこの性格は。まるで人間だな」
鼻でふふッと笑うアレックスだった。

アレックスはさっそくリリアンに頼み事をした。
「リリアン。今日からよろしくね。僕の名前はアレックス。さっそく今日から家事をお願いね。あと、ご飯はビーフシチューをお願い。いいかい?」

「分かりました。よろしくお願いします」

紙に線を引くくらい、あっけない返事だった。
薄っぺらな感情が声から伝わる。

「まぁ所詮ロボットだから仕方ないか」とアレックスは胸の中でつぶやいた。

リリアンはとてもとても働き者だった。
「なんだ、博士は随分なこと言っていたが、全然働くじゃないか」

リリアンはとてもお喋りだった。
ご飯中も掃除中もいつも顔を合わせると、話しかけてきていた。

「今日のお肉はロースを使うつもりが、サーロインにしてしまいまして・・・・・・。でもきっとこちらのが味が合うかと思いますよ」など。

一言では終われない会話が日々隠されてあった。
アレックスは日に日にリリアンを気に入っていった。

そんな数週間がたったある日。
アレックスはリリアンと散歩をしていた。

外は春としては贅沢なほど桜に包まれていた。
アレックスは思い出し、聞いた。

「リリアンはお花が好きなんだろう? どこが好きなんだ?」

リリアンは空を見上げた。

「季節には必ずその時期を盛り上げてくれる花があります。お花が描いてあれば、絵でもどの季節かわかりますよね。まるで香りまで届きそうな。あれがたまらなく好きなんです」

アレックスも空を見上げた。

桜の花びらが楽しそうに地上に舞い降りてきていた。
「桜は春。夏はひまわり。秋はコスモス。冬は・・・・・・なんでしたっけ」

するとリリアンは、下を向いた。
それはなにか思い出を拾い集めるかのような顔だった。

でもリリアンには思い出はインプットされないはずだ。
記憶はデータとしてアップデートされていくだけ。

"思い出す"という行為はロボットにはない。

「冬は、ローズマリーですよ。私が一番好きなお花です。香りも大好きなんです」

香りまでいってくるなんて、珍しいことをいうロボットだなぁとアレックスは感心した。
きっと博士のおちゃめ心でインプットさせたに違いないと思っていた。

リリアンはそのまま足元をしばらくみていた。

「今年もローズマリー見に行けるといいですね」とアレックスは言った。

その日から、急にリリアンは口数が減った。
そしてリリアンは夜になると何かを紙に必死に描いている日々が続いた。

「リリアン? 大丈夫? 夜ご飯作れるかい?」
アレックスが聞くと、ビクッとした様子でこちらに振り向いた。

「すいません。もうそんな時間ですか?」

リリアンはどこか上の空だ。

急いで作ったごはんは、カレーライスだったが、肝心な玉ねぎとじゃがいもが忘れていた。

「リリアンこれ、豚肉しか入ってないじゃないか」
「あ、ごめんなさい。ついうっかり」

あからさまにリリアンはアレックスの家から出たそうであった。

掃除も徐々にしなくなり、いつもいつも紙に何かを描いていた。
アレックスはそんな不安定なリリアンにイラつきが増してきて、ついにレンリル博士に電話をした。

「もしもし。レンリル博士? 僕です。アレックスです」
「あぁお久しぶりです。明日で契約の一か月ですね。いかがですか? リリアンとは」

レンリル博士の声はなんだか軽く弾むような声だった。

「いや、それがこの前、散歩していたとき好きな花の話になって。そのときから、何かを思い出したかのように毎日紙に向かって何かを書いているんです。全然仕事もしなくなってしまって」

「・・・・・・やはり。急に、自分勝手になるやつなんです」
レンリル博士はなにかを悟ったかのように理解していた。

「どうされますか?? 延長のほうは」
「いや、もうお返しします。リリアンはここにいちゃいけない気がして」

「そうですか。では、明日契約終了の手続きを行います。リリアンとこちらに来ていただけますか?」
「分かりました」

アレックスと明日契約終了の約束をすると電話をきった。
レンリル博士は、予想通りだったのだ。

次の日、アレックスはリリアンを連れてレンリル博士の研究所にやってきた。

「お久しぶりです。アレックス様。リリアンとの生活はいかがでしたか?」
レンリル博士はいつもの優しさ溢れる顔で聞いてきた。

「いやぁ。最初は良かったんですがね。散歩に連れてった日から調子が狂いまして。暇さえあれば机に向かって、無心で何かを描いてるんです。名前を呼んでも気付かない日さえあります」

レンリル博士は、目に少しばかりの水滴を溜めているような、そんな顔でアレックスの話を聞いていた。

「僕なんかしてしまったのかな? ま、でもどちらにせよ相性が合わなかったようだ。少しではあるが、リリアンと生活することができてよかったです。ありがとうございました」
アレックスは清々しく言い放った。

「こちらこそ、リリアンのお世話ありがとうございました。うちの妻大変だったことでしょう。あ・・・・・・いや」

レンリル博士は自分が放った言葉に口が滑ったと言わんばかりの顔で焦りを見せた。

すかさずアレックスは、「え? いまなんておっしゃいました?」と聞き返すが、レンリル博士は顔を赤らめたまま笑ってごまかした。

「まぁいいか。では、また会う日まで」
アレックスはとにかく家に帰りたいと言った様子でレンリル博士の研究所を去った。

レンリル博士は一目散に、リリアンの部屋に向かった。

「やぁ、リリアン。よく頑張ってくれたな」

博士は肩にスカーフを巻くように優しく囁いた。

「あなた。私に変なことインプットさせたみたいだけど、そんなことしたって無駄よ。はぁ、本気で疲れるわ。ロボットらしくいるなんて無理なのよ、本当に」
いままでのリリアンからは決して想像がつかないくたびれた生の人間のようなセリフを吐いた。

「だよな、お疲れ様。でも私がロボットを作り続けるからにはお前の協力が必要なんだよ」

「妻に泥棒させて、本当偉そうに言わないでよね。あんたの夢のために私もひと肌脱いでるんだからね。感謝してよね」
というと、机の上にアレックスの豪邸で盗んできたお宝をバシャバシャと出してきた。

「これで全部よ。見つかりそうだったからね、これくらいが限界よ」

「たくさんありがとう。これでまた新しいロボット製作ができるよ!」

そう、このロボットのふりをしていた、リリアンはレンリル博士の妻のアゼーヌという人間だった。

2人は長年、お金持ちのお客がロボットを買いたいと言ってくることを味方に、妻であるアゼーヌにロボットのふりをさせ、盗みを働かせていた、夫婦そろって大犯罪者であった。

ある程度、宝や現金を盗めたり、見つかりそうになると、奇行を働かせて家事をしなくなり、手放したいと思わせるような流れであった。

アレックスも被害者68人目となってしまった。

そのため、町でも姿をなるべく隠しながら、研究者として誰も近づかない存在と化していた。

ロボット作りに没頭したあまり、妻までをも巻き込んだレンリル博士の完全計画泥棒は、2人の没後に世に出ることなった。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 「これがわたしの作った、最も優秀なロボットです。なんでもできます」。博士のとくいげな説明に、お金持ちのエヌ氏は大金を払ってロボットを手に入れ、島の別荘へ。料理に掃除に、時には退屈しのぎの話し相手として優秀な働きをするロボットですが、二日ほどすると、ようすが少しおかしくなってきます。突然動かなくなったり、かと思えば腕を振り回してエヌ氏を追いかけてきたり。島から帰ってきたエヌ氏が博士に文句を言ったところ……。

 小松左京、筒井康隆と並ぶ、日本SF界のレジェンド・星新一(1926-1997)は生涯1000編以上のショートショートを残すとともに、79年からは「星新一ショートショート・コンテスト」の審査を務め、後進育成にも尽力しました。今作もそうですが、誰もが親しみやすい導入からの思わぬ展開、そして秀逸なオチと3拍子そろった少し不思議なお話ばかりで、子どもが初めて手にとる大人の本として読み継がれています。そして今回のカレンさん版ですが、とっぴな展開と、意外なオチが効いていて、切れ味抜群。ショートショート作家として、デビューできるのでは?