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藤巻亮太の旅是好日 実家の葡萄作りから、SDGsを考える

文・写真:藤巻亮太

ひと夏の葡萄の農作業

 以前このコラムにも書いたのだが、私は今年の夏前に実家で葡萄の農作業を手伝った。この歳になって初めてじっくりと農業という仕事と向き合う時間ができた。果樹はとにかく出荷前の手間がかかる青果であり、葡萄はその房作りと摘粒(てきりゅう、必要に応じて一部を間引く)が欠かせない。粒が大きく成長するごとに何度もハサミを入れて、綺麗な房へと仕上げてゆくのだ。放っておいてもそのまま商品になるなどとは思っていなかったが、これほどまでに手間がかかって一房の葡萄が出来ていたことに心底驚いた。

 ただ、どれほど手間をかけて育てた果物も、近年大規模化している台風や災害に見舞われれば落ちてしまい、傷んで出荷できなくなってしまう。結局のところ、葡萄を作る側からしても地球規模の気候変動は待ったなしの問題なのだ。気候変動だけではなく、後継ぎの問題、耕作放棄地の問題などマクロにもミクロにも色々とあり、葡萄だけでなく日本の農業を持続していくためには何が必要でどうしていくべきなのかを、わずかだか身をもって知らされた。

SDGs(持続可能な開発目標)を学ぶ

 ひと夏の農作業をきっかけの一つとして、食や水と自然環境、それらをとりまく経済や社会への問題意識を改めて深めることになった。30代半ばからこうした問題について考える機会自体、増えてはいた。そして現在は一層学んでみたいとも思っている。その一環として最近読んだ本に『SDGs(持続可能な開発目標)』(蟹江憲史、中公新書)がある。SDGsという言葉自体は色々なところで聞くようになったし、常識程度には知っていたが、改めて深いコンセプトを知りたくて購入した。入門書として全体像を掴みやすい内容と感じた。

 国連は1972年に行われた「ストックホルム会議」で、環境問題は人類共通の問題であると主唱し、当時の状況のままでいけば100年以内に地球の成長は限界に達するとの衝撃的なレポート「成長の限界」も発表された。以来、国連はさまざまな形で環境問題に取り組んできたが一方で、それらはコストがかかるという現実とその負担の重さといったイメージのため、企業などの積極的な協力を得られずなかなか成功しなかった。環境と開発(経済)は別物として議論が分けられる傾向にあった中に登場したのが、SDGsである。環境と開発という相反すると思われてきたテーマを巧く包括的に調和させる新たなコンセプトとして、問題解決の突破口になり始めているのだ。

SDGsの目標とは

 SDGsには17の目標と169のターゲットがある。その一部を紹介する。

1.貧困をなくそう 2.飢餓をゼロに 3.すべての人に健康と福祉を 4.質の高い教育をみんなに 5.ジェンダー平等を実現しよう 6.安全な水とトイレを世界中に・・・・・・13.気候変動に具体的な対策を 14.海の豊かさを守ろう 15.陸の豊かさを守ろう・・・・・・など

 これらの目標に誰も強く反対は唱えないだろう。だがこれまでの問題点は、総論としては賛成でも、各論になると当事者同士が条約やルールに厳しく縛られることになり、妥協線を探ろうとすると途端にハードルが上がってしまうことにあった。

 この流れを受け、SDGsでは手段について厳しいルールをなしにして、目標を達成さえすればそれぞれの自主性を尊重するという姿勢に転じたのだ。これによって、国ごと、企業ごと、自治体ごと、個人ごとに、17の目標のいずれかに取り組む事によって相互作用的に目標に向かっていこう、との取り組みになった。手段について縛りがないので、そこにビジネスチャンスを見出す企業や個人もあるし、取り組みの分母が増せば結果的に目標達成を促す力となる。企業や個人で補いきれないところは地方自治体などがカバーする仕組みなどもトライされており、全国で結果を出し始めている。

 ただ、新聞の調査によるとSDGsの認知度はまだ32.9%と低いのも実情だ。環境・経済・社会の3つを統合し横断できる意識を持って、2030年の目標達成というゴールに向けその実際の取り組みをより具体的に改善させるのが今、求められているようだ。

原点はアフリカへの旅

 そしてもう一つ、SDGsに強く私の意識を向かわせたのは、30代でアフリカをはじめ多くの国を旅した原体験かもしれない。時は多少前後するが、かつて「南アルプス スパークリング」のウェブCMに出させて頂いたときに、サントリーさんから水についてグローバルとローカルの視点を交えた丁寧なレクチャーを受けることができた。ヒマラヤ山脈で出来た水蒸気が偏西風に乗って日本までやってきて南アルプスにぶつかり雨となり、長い年月をかけ湧き水となって我々の飲み水になる。日本は世界でも有数の水資源豊かな国なのだ。

 しかし私が訪れた多くのアフリカの国、特に東アフリカで最大のスラム・キベラでは下水道の存在は皆無、飲み水もとても衛生的とは言えない状態であった。日本にいると当たり前でも、世界に出ると当たり前ではないこの現実、やはりSDGsの6番目の目標、「安全な水とトイレを世界中に」は急務であり、これらは貧困、飢餓の問題に直結していると肌で感じた。

 そして本を読み進めているととんでもないデータにぶつかった。FAO(国連食糧農業機関)によれば、世界の1年間の消費用食糧生産量の1/3に当たる約13億トンもの食料が誰の口にも入らず廃棄されているのだ。一生懸命育てた作物などが廃棄されている現実があるのだが、一方で食料が世界中の必要とする人に充分にいきわたっている訳でもない。事実、2015年時点で7億8400万人もの人々が栄養不良であり、厳しい現実に恐ろしさすら感じた。

 私が経験したひと夏の葡萄の農作業は深い学びのきっかけとなった。だからこそ来年は私なりにアクション起こしていきたい。あまり大風呂敷を広げることはSDGsの求めるところではない。17の目標のいずれかでも、一人ひとりがわずかでも貢献していくことが求められている。

>藤巻さんがアフリカで撮影した写真の数々はこちら