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「魂の邂逅」書評 綾なすふたりの「道行」描き出す

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2020年12月19日
魂の邂逅 石牟礼道子と渡辺京二 著者:米本浩二 出版社:新潮社 ジャンル:日本の小説・文学

ISBN: 9784103508229
発売⽇: 2020/10/29
サイズ: 20cm/250p

魂の邂逅 石牟礼道子と渡辺京二 [著]米本浩二

 本書は3年前に上梓(じょうし)された『評伝 石牟礼道子――渚(なぎさ)に立つひと』の続編だが、この言い方ではどうも月並みに過ぎる気がする。
 晩年の石牟礼さんに親しく接し、ご本人と親族や近しい人々にも深く取材した前著は、作家・石牟礼道子を知るに最適の人物史だ。
 しかし前著を書き終えたとき、おそらく著者には、ここからが本当の出発だという思いがあったろう。作品への言及を織りこみながらも作家の足跡や作品のなりたちを「外から」見ることをひとまず終えたとき、ようやくその世界の奥に分け入ることができると感じられたはずだから。
 その思いが随所にあふれて本書を単なる「パート2」に終わらせない。
 冒頭「道子の章」では「きのう、もちごめを炊いたんですよ」で始まる石牟礼さんの語りが、自然や環境に感応して言の葉をつむぐ霊的な作家の姿を蘇(よみがえ)らす。それを陰に陽に支えながら、自身は対照的に言葉の刃を研いだのが渡辺京二。
 「渡辺さんは死ぬまで本ば読む。根気があります。私は本読んでも、ちっとも頭に入らん。頭の出来が違うとです」と石牟礼さんのいう気骨の思想家である。
 本書はその間柄に焦点を当て、水俣病闘争の同志、作家と編集者、情の女と理の男、半世紀余にわたってとりどりに綾(あや)なされたふたりの「道行(みちゆき)」を描き出す。前著の刊行から約1年後に石牟礼さんが亡くなり、その場にも晩年の病床にも付き添った著者はそれぞれの日記や書簡まで丹念に目を通し、いわばふたりの生を生き直しながら、ともに孤独な魂の邂逅(めぐりあい)をまのあたりにしたのである。
 巻頭に掲げられた50年近く前のふたりの写真におぼえがあった。実は評者は学生時代、これを撮った八代在住の作家・前山光則さんに連れられて、熊本の石牟礼さんの仕事場に幾度も泊めていただいていた。そのころ以来、不義理のまま年月を重ねてしまったことを、いまは愧(は)じるほかない。
    ◇
 よねもと・こうじ 1961年生まれ。毎日新聞記者を経て著述業。『評伝 石牟礼道子』で読売文学賞評論・伝記賞。