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18世紀のパリ社交界で「現代の化粧品」が大活躍! みやのはる・堀江宏樹「ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~」(第121回)

 そういえば、「化粧」と「化学」には同じ字が使われていて字面も似ている。これまでイメージはまったく重ならなかったが、考えてみれば両者はとても近い関係にあったのだ――。無料ウェブコミック誌「COMIC BRIDGE」(KADOKAWA)で連載中の『ラ・マキユーズ~ヴェルサイユの化粧師~』(みやのはる・堀江宏樹)を読んで、そんなことに気がついた。

 化粧品メーカーに勤める琉花(るか)は理系アラサー女子。恋愛や自分のオシャレにはまったく興味がない一方、かわいいものに目がなく、「お姫様の世界にゴリゴリの最先端科学と技術がパンパンに詰め込まれている」化粧品に魅せられ、開発部のエースとして活躍するようになる。仕事でフランスを訪れた琉花はルイ15世が治める18世紀にタイムスリップ! 髪が短いため「東洋人の少年」と見られながら、立身出世を夢見る髪結師(かみゆいし)のレオナール・オーティエとコンビを組み、自身が開発した化粧品と現代の化粧技術を武器にパリの社交界で頭角をあらわしていく。

 少女マンガでタイムスリップものは意外に多いが、もっとも有名かつ古い作品は、『ガラスの仮面』(美内すずえ)と同じく1976年に始まった『王家の紋章』(細川智栄子あんど芙~みん)だろう。累計発行部数4000万部以上。少女マンガ界の現役最長作品であり、現在発売中の「月刊プリンセス」(秋田書店)1月号では、「連載45周年」を記念して表紙まで飾っている。考古学が好きなアメリカ人の少女キャロルが3000年前の古代エジプトにタイムスリップ。見慣れない金髪や古代人が持たない科学や歴史の知識から「ナイルの娘」とあがめられ、あろうことか同年代のイケメン少年王メンフィスと結婚して王妃にまでなってしまう。

 キャロルが20世紀に作られた解毒剤でコブラにかまれたメンフィスを救う場面があったが、琉花が使う化粧品も18世紀の人から見れば「魔法」にしか見えなかったに違いない。化粧品にまつわる化学のウンチクは、化粧にまったく関心がない男性が読んでも面白い。歴史エッセイストの堀江宏樹が監修を務めており、18世紀のフランス社会が細かく描写されているのも読みどころだろう。エレベーターがないので、アパルトマンは上の階ほど家賃が安い。当然ながら、恋愛観や結婚観も現代とはまったく違う。恋愛はほとんど不倫と同義。結婚は恋愛の結果ではなく、貴族の女性はまず有力者と結婚しなければ自由に恋愛などできなかったという。

 なお、レオナール・オーティエはマリー・アントワネットの髪結を務めた実在の人物。ここから琉花とレオナールがどのように成り上がっていくのか? 11月に第1巻が出たばかりで、物語はこれからが本番だ。