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たかぎなおこさん「はらぺこ万歳! おかわり」インタビュー 家族が増えて描く、食生活のぬくもり

文:根津香菜子 絵:『はらぺこ万歳! おかわり』より(C)たかぎなおこ/文藝春秋

「食」がテーマでにじみ出る人柄

――まずは、たかぎさんがコミックエッセイというジャンルでデビューされた経緯を教えてください。

たかぎなおこ(以下、たかぎ):元々は今とは全く違ったテイストのイラストを描いていたんです。美術系の短大とデザイン学校を卒業後、名古屋のデザイン会社に就職したのですが、当時はベン・シャーンやウィレム・デ・クーニングが好きだったので、その影響も受けて、ちょっとアートかぶれのようなところがありました。

 ある時、一念発起して「東京でイラストレーターになろう!」と思い24歳で上京したのですが、売り込みに行ってもなかなか仕事につながらなくて。そんな時、知り合いから「ホームページを作って絵をのせれば、そこから仕事がくることもある」と言われてホームページを作り、その中で遊び感覚でイラストを交えた絵日記みたいなことを始めてみたんですが、たまたまそれを見た出版社の人が「こういう感じのテイストで本を書いてみませんか」とお誘いしてくださったのがきっかけでした。

――当時はまだ「コミックエッセイ」というジャンルはメジャーではなかったですよね。

たかぎ:そうですね。ちょうど、小栗左多里さんの『ダーリンは外国人』がすごく売れていて、コミックエッセイというジャンルが花開く前くらいの時です。

たかぎさんがこれまでに出版した作品の一部

――今のようなお仕事をするようになると思っていましたか?

たかぎ: 最初に出した『150cmライフ。』の依頼をいただいた時は、その1冊で終わると思って描いていたんです。でもその後も依頼が続いていったのは自分でも意外でした。それまではちょっと抽象的な感じのイラストを描いていたのですが「仕事として使いづらい」と言われ、自分でも考えるところがあったんです。

 高校生くらいまでは「将来は少女漫画家になりたい」と思い、雑誌「りぼん」に投稿したこともあります。でも、私はどうもストーリーを作るのが苦手で、すごく嘘くさくてご都合主義なお話になってしまうので、漫画家の夢は諦めたんです。思えば、カッコつけずに自分の日常の出来事を描くコミックエッセイは、私に向いていたのかもしれないですね。読者の方からも「共感しました」とか「私も同じです」と言ってもらえるのは嬉しかったです。

絵もストーリーも「負の感情がない」

――馬塲さんがたかぎさんに「食」をテーマにした作品を依頼したのは、どんなきっかけだったのでしょうか。

馬塲智子(以下、馬塲):たかぎさんのこれまでの作品を読んでいて、特にごはんのシーンが美味しそうだなと思っていました。食べものの絵から温度が伝わってきて、ホカホカしているんですよ。「もっとたかぎさんの日常に密着したごはんの話が読みたいな」と思ったのと、たかぎさんご自身も温かい方なので、そんなお人柄が「食」をテーマにすることで前面に出やすいのかなと思いました。

『はらぺこ万歳!』より(C)たかぎなおこ/文藝春秋

――馬塲さんはたかぎさんが描く食べ物作品の人気の理由を、どんなところにあると思われますか?

馬塲:負の感情がないところでしょうか。お話も絵も全部が温かいので、読んでいても疲れないし、すごく体が楽になるというか癒されるんですよね。

 それに、たかぎさんの「美味しい」は、すごく幅が広いんです。ちょっとお高いものはもちろん美味しいんですけど、ジャンクなものやお手軽なもの、子供のころの記憶にあるものも、どれも「本当に美味しい!」という感じで、食べ物の美味しさが平等なところが素敵だなと思います。

――たかぎさんが食べ物を描くときに心がけていることはありますか?

たかぎ:自分が食べて「美味しい」と思ったものを描くようにしています。読者の方ががっかりするようなことや、「美味しい」の対比やオチで、「あんまり美味しくないかな」と思ったものはなるべく描かないようにしようと思っています。食べものに関しては、常にポジティブでいたいと言うか。

 あとは、食べ物を描くときは食べた時の記憶をたどったり、なるべく明るい色を使って着色したりということを考えています。今作で描いたハンバーグも「確かお母さんが作っていたのはこんな色だったな」というのを思い出して描いていました。

『はらぺこ万歳! おかわり』より タネにケチャップを入れた、たかぎさんのお母さん特製ハンバーグ

家族を得て、変わっていく食生活

――前作では自由気ままなひとりごはん。そして本作では、結婚してお子さんも生まれ、夫婦、家族とのごはんと、それぞれを経験されてどんな違いや変化を感じましたか?

たかぎ: 一人暮らしの時は生活も夜型で、好きな時に仕事をして、家の隣にスーパーがあったので、お腹がすいたら好きなものを買って適当なご飯を作って、という感じでしたね。上京したてのころはお金がなかったので、とにかく安くてお腹いっぱいになるものがいちばんでした。よく作って食べたのは豚キムチチャーハンです。チャーハンは割と何でも入れられるので(笑)。

 結婚したらもっとちゃんと作らなきゃいけないのかなと思っていたのですが、夫(愛称:おつぐやん)が意外と料理をしてくれる人だったので、一人の時は量が多すぎて買えなかった食材を思い切って買ったりして、2人でごはんを作る楽しみが増えました。今は子供がいるので「今日は何を作ろう?」って日々考えるんですが、自分が子供のころに食べて美味しかったものって何だっけ?って考えてみると「そういえばお母さんのハンバーグが好きだったな」とか、「さつまいもの天ぷらも好きだったな」と思い出して、献立を考えるきっかけになっています。

――お子さんが生まれて、ご自身の小さい頃の食体験を思い出し、毎日の献立にいかしたのですね。

たかぎ:子どもが生まれてすぐのころは本当にバタバタで、料理本を開く余裕もないことが多かったので、そういう時に思い出していましたね。うちの母はレパートリーもたくさんあるほうではなかったと思いますが、レトルト食品は使わずに手作りしていたと思います。独身時代、実家に帰って母の手料理を食べると「あ、うちの味」とよく思ったのですが、それを再現するのが難しくて。聞けるうちに母にもっと料理を教えてもらおうと思います。

――実家で出た「謎ちくわ料理」や、娘さん(愛称:むーちゃん)を寝かしつけた後にお菓子を楽しむ夫婦の「悪さタイム」など、共感するエピソードが多いんですよね。

『はらぺこ万歳! おかわり』より 好きなお菓子を常備している通称「悪さBOX」

たかぎ:周りの人は意外なところに反応してくれたり共感してくれたりしたので、それがおもしろかったです。きちんとごはんを作っていそうな人に限って「私もよくカップのワンタンスープを食べています」と言っていたり、知らない人が多いかと思っていた「穂じそみそ」を「私も作っています」と言ったりする人もいて。あとは「夕飯は夫婦で好きなカップ麺を買って食べるの、すごく分かります!」という方も結構いて「みんなそうなんだな」ということが分かって嬉しかったです。

――旦那様の「おつぐやん」さんも、とてもマメにお料理されますよね。今では自家製ベーコンも作るほどの腕前ですが、たかぎさんが旦那様と出会った時に「いいな」と思ったきっかけの一つが、文旦の皮をきれいにむいてくれたことだったとか。

たかぎ:夫はとても器用なので、その時もお店みたいにキレイにカットしてくれて「この人優しいな、いいな」と思いました。夫は結婚するまで実家暮らしだったので、あまり好き勝手に料理できる環境ではなかったみたいです。なので、今自由に作れるのが嬉しいのかもしれません。ただ、献立を考えるのが苦手らしく、私が「こういうの作ってほしい」とか「これ食べたい」って言うと喜んで作ってくれるんです。

『はらぺこ万歳! おかわり』より

――「居酒屋おつぐ」が羨ましいです。そんな仲睦まじいお2人ですが、結婚当初はお互いの食の違いで驚かれたこともあったそうですね。

たかぎ:お義母さんはお餅が苦手だそうで、お正月にお餅をあまり食べないというのは驚きました。それから、大晦日にご馳走を食べるのか、元旦に食べるのかというお正月の過ごし方の違いはありました。今はお義母さんと一緒のことが多いので、夫の実家の習慣に合わせて、年末はしっぽりとお蕎麦を食べて、お正月におせちやご馳走を食べています。

『はらぺこ万歳! おかわり』より 

「あの味をもう一度」コロナ後の目標に

――前作では、馬場さんと一緒に兵庫県の明石焼きや青森県大間のマグロ丼などのローカルグルメや、「うるか」や「イカの頭入り塩辛」といった珍味まで、様々な食を堪能されていましたが、ご自身の食遍歴を振り返ってみていかがですか?

たかぎ:以前は子供もいなかったし、コロナウイルスもなかったので、自由にあちこち美味しいものを食べに行っていたんだなぁと思い、それがちょっと羨ましい感じもしますが、行ける時にいろいろなところに行っておけたのは財産だったなと思いますね。今は自由に遠出もできないけれど、食べたものの記憶は残っていて「あそこのあれを家族でもう1回食べてみたいな」という目標ができたり、もう一度食べたかったものがお取り寄せできるようになっていたので、今はそういう楽しみを見つけています。

「はらぺこ万歳!」より

――これからどんなことを描いてみたいですか?

たかぎ:娘の成長と共に生活もどんどん変わっていくと思うので、その時思ったことや考えたことをリアルに描ければいいなと思っています。私の作品を初期のころからずっと読んでくれている方の中には、三重県から上京して一人で暮らしていた人が、結婚してお母さんになって……みたいな大河ドラマのように読んでくれてる方もいるので、そういう人に「最近はこんな感じです」と報告するような作品をずっと出していけたらいいなと思っています。

馬塲:ご家族も増えると食事の形も変わっていくじゃないですか。ステージが変わってもいつも美味しそうにごはんを食べているたかぎさん一家を見ると、こちらもすごく幸せになるんです。私はたかぎさんより少し年上なのですが、親戚の子を見てるような気持ちになって、娘さんが大きくなったらもっと個性が出てくると思うし、食べるものも変わってきて「どんな子になるんだろうな」って(笑)。読者の方からの感想でも「なおこちゃんが今も元気で嬉しいです」というお便りをくださる方もいるんですよ。

――知らない親戚の方がたくさんいるような感じですね(笑)。

たかぎ:娘がお年頃になってきたら、流行っている食べものを教えてほしいですね。それを一緒に食べに行けるようになったらいいですね。あとは私もだんだん年をとっていくので、50代の生活や、シニアライフみたいなのも描いてみたいですね。