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【追悼】昭和史みつめた半藤一利さん 言論空間で覚悟問い、対話試みた懐の深さ 

半藤一利さん

 作家の半藤一利さんが90歳で亡くなった。自らの戦争体験を起点に、昭和史をみつめ、政治の現況についても直言した。その気骨あふれる姿勢は、ジャーナリズムの弱体化が指摘されるなか、後進のよりどころであり続けた。

 作家の吉岡忍さんが初めて半藤さんに会ったのは、1976年。ロッキード事件追及の週刊紙を立ち上げたまだ20代の青年に、「週刊文春」編集長だった半藤さんは「戦前からの右翼の流れをつかんでおく方がいい」と助言した。

 「目の前の出来事の理解には歴史の知識が欠かせない。特に昭和史を知らなければ現在まで続く日本の無責任の体質を克服できない、という信念が一貫した人でした」

 何度か対談したジャーナリストの青木理さんも、半藤さんが歴史への深い洞察をふまえて現在の日本の政治の劣化を憂え、自分よりはるかに強い危機感を抱いていることを感じたという。

 「戦争の時代を生きた人間の肌感覚でもあったのだろう。教育の国粋主義化、言論の不自由といった項目を『社会が戦争に向かう六つの兆候』として指摘し、それらが現在にも当てはまりつつあると訴えていた。特に、我々メディアや言論人の覚悟を問うていました」

 「歴史探偵」を名乗った半藤さんの筆はやわらかく、語り口や題材選びの幅広さでも読者を魅了した。分断が進む言論空間で、多くの人々に届く言葉で対話を試みた。「保守やリベラルの垣根を越えて危機意識を共有できる懐の深い人だった」と青木さん。その存在を、失った意味は重い。(藤生京子、山本悠理)=朝日新聞2021年1月20日掲載