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内田麟太郎さんの絵本「あしたも ともだち」 変とか不思議とか驚きを詰め込んで

文:坂田未希子、写真:家老芳美

書いた瞬間に「売れる!」

――さびしんぼうのキツネと心優しいオオカミは、仲のいい友だち。今日も、歌をうたいながら散歩にでかけます。ところが、「や、やめだ! さんぽは やめだ!」。いきなりオオカミが怒鳴りだし、キツネを置いて帰ってしまい……。内田麟太郎さんが物語を書く『あしたも ともだち』(絵・降矢なな、偕成社)は、人気シリーズ「おれたち、ともだち!」の3作目。キツネとオオカミの間にクマという第三者が入ることで、より友情が深まっていくというお話だ。

『あしたも ともだち』(偕成社)より

 もともと1冊で終わっている話で、こんなに続くなんて思ってもいませんでした。ある時、「ともだちや」っていう言葉が浮かんできたんです。お金をとって友だちになる、そんな商売を書いた本は読んだことがないなと思って、自分でもびっくりして、誰も書いたことがないものを思いつくと興奮するんですね。すごいな、面白いなと思って、カレンダーの裏にコマ割りをしてラフを描いていきました。

 キツネがオオカミに「あしたもきていいの」って聞くと、オオカミが「あさってもな」って答える場面を書いたとき、かっこいい!と思ったんです。これはいけると。私はずっとナンセンスものを書いてきて、ナンセンスってそんなに売れないんですけど、これは書いた瞬間に「売れる!」って思いました。でも、それが嫌だった。自分に腹が立った。友だちのことをマジメに書いた本なんて、照れちゃって恥ずかしいから、世の中に出したくないと思って。でも、作品自体に「変」なところがあって、「変」というのは好きで、捨てずにとっておいたんです。

 数年後に、偕成社の編集長から「2年後に退職するから、退職土産に作品がほしい」と手紙がきて、ナンセンスではないもの、「内田さんってこんなのも書けたんだ」って他の出版社が悔しがるのがいいって。彼には借りがあったので、「ともだちや」を送ったら、すぐに電話がかかってきて「シリーズにするから次を書いてくれ」って。しまった!と思った。売れっ子になっちゃうって。これはなんとしても止めなきゃいけない、売れない本にしなくちゃいけないと。絵を誰にするかっていう話になって、作品のイメージに合わないような人ばかり挙げて怒られました(笑)。

 それで、担当の編集者が3人挙げてくれて、2人はすごくマジメな絵だったんですが、降矢ななさんの絵は「変」なところがよかったので決めました。降矢さんから「動物は服を着ているか着ていないか」と聞かれて、お任せした方が面白くなりそうだと思ったのでお任せしたら、頭にのぼりをつけて、浮き輪をして提灯を持ったキツネが出てきたんです。いくらなんでも、こんな変なキツネを想像していなかった(笑)。でも、それがよかった。子どもってこういうのが好きなんですよね。変とか不思議とか驚きっていうのがね。

『ともだちや』(偕成社)より

文字は絵でもある

――内田さんの意に反しながらも予想通り、「ともだちや」は人気のシリーズになっていく。ヤキモチを焼いたり、大好きだからこそ疑ったり、試してみたり。作品を重ねるごとに友情が深まり、キツネとオオカミが互いを想い合う温度までも感じられる。

 自然とそういう感じになっていきましたね。読者に作られていく部分もあります。オオカミの性格も、優しくて、でもそういうところを見せたくないとか、読者と私の間で約束が成り立っていくみたいなところはありますね。最初はキツネが主人公だったけど、だんだんオオカミの人気が出てきて、こんなに人気になるとは思っていませんでしたね。

『あしたも ともだち』(偕成社)より

 私はナンセンスで世の中に出て、ナンセンス作家として生涯を終えたいと思っていたので、胸キュンの『ともだちや』で入ってきたお金は不浄の金みたいな感じがして、奥さんに渡さずにクッキーの缶に入れてたんです。そしたら、奥さんが仕事をクビになっちゃって。それまで一度もそういうことを言ったことがなかったんだけど、初めて「りんちゃん、どうする?」って。クッキーの缶を開けて「実はこの絵本が売れてるんだ」って言ったら、うちの奥さん、翌日、プールと囲碁クラブに申し込んできて、それから働いてません(笑)。

――詩人でもある内田さん。作品には必ず歌が出てくる。

 『あしたも ともだち』は「こまった くまった くまった こまった」っていうのが浮かんできて、書ける!と思いました。その言葉が押してくれる。そういうのが見つからないと書けないんです。なんか「変」なのが入らないと書けない。子どもたちも、そういう言葉あそびが好きですね。

 でも、絵本を書いていて一番うれしいのは、言葉を書かないページができたとき。言葉でお金をいただいているんだけど、言葉を書かないページが作れた時が一番快感です。例えば海の絵があったらそれで十分。そこに言葉を載せたくない。海の絵をじっと見ている時間経過の中で心の変化があって、パッとめくったところに必要な言葉がちょっと入っている。そういうのができた時はいいなと思います。文字にも重さがあって、文字は絵でもあるんです。絵と文字のバランスが大事。それを考えながら書いています。

――この春、内田さんの生まれ故郷である大牟田に「ともだちや絵本美術館」が開館する。かつては三池炭鉱で栄えた街だ。

 町おこしの一環です。私の友だちが最初の計画から携わっていて、でも私はなにも知らされないで市庁舎によばれ「内田麟太郎美術館」を作りたいって言われたんです。それはまずい、絶対赤字になるからやめた方がいいって。友だちは私が喜ぶと思っていたのに、そんなことを言われてシュンとしちゃって。それで、内田麟太郎は知らなくても『ともだちや』を知っている子どもは多いから「ともだちや美術館」にしたらどうかと。すぐにスロヴァキアにいる降矢さんに電話したら「麟太郎さんの故郷でしょ、もちろんいいですよ」って。それから8年。地元の友だちや市民の方たちも応援してくれている美術館なので、私も楽しみです。これまた予定外に、開館に合わせてシリーズの新作も出る予定です。