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「クルマが変わる」本でひもとく デジタル革命が促す国家競争 自動車アナリスト・中西孝樹さん

コンパクトEVを生産している上汽GM五菱の工場=2020年10月、広西チワン族自治区柳州

 自動車産業は100年に1回の大変革を迎えている。それは自動車の「デジタル革命=CASE(ケース)」を意味する。運転は自動化され、化石燃料から電気へ動力源が変わる。

 100年前の米国では1500万頭の馬が馬車を牽引(けんいん)して移動の自由を人々へ提供していた。T型フォードが馬車を20年程度で自家用車に置き換えたといわれる。

 これから我々が迎えるのが知能化、デジタル化、電動化の三つの技術革新がもたらすCASEと呼ばれる革命である。「コネクテッド」「自動運転」「シェアとサービス」「電動化」の産業の4大トレンドの頭文字を取った造語だ。個人がクルマを所有し自ら運転して移動する伝統的な姿から、Mobility as a Service(MaaS〈マース〉、サービスによる移動)へ進化が起こる。環境破壊や社会的課題を解消する超スマートな社会の実現がその先にある。

IT企業が参入

 アップルやソニーのようなIT企業が電気自動車(EV)を設計し、組み立てに専念する台湾の鴻海(ホンハイ)のような企業が生まれ、ウーバーが提供する自動運転車で移動する社会の構造図はいつか訪れる未来だ。異業種産業が群雄割拠するクルマ社会の未来図を描いたのが『2022年の次世代自動車産業』だ。IT企業側から考えた自動車産業へのアプローチが詳細に解説されている。

 近年、急激に加速し始めたのが電動化だ。地球温暖化を回避するカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量をバランスさせること)の宣言ラッシュが起爆剤である。欧州連合(EU)は欧州グリーンディール戦略と共に2050年カーボンニュートラルを宣言し、習近平(シーチンピン)・中国国家主席は国連で2060年までのカーボンニュートラルを約束。日本も2050年カーボンニュートラルを宣言した。

 この政策では、気候変動政策と産業の構造転換を両立することが成功のカギだ。エネルギー政策と経済成長を狙った国家戦略が欧州、中国で台頭している。欧州グリーンディールは、脱炭素を目指す国家や企業がコスト競争力を得るという枠組みを主軸に置く成長戦略だ。

 中国では新エネルギー車(NEV)を推進してきた。電池の世界覇権を争い、エネルギー戦略と産業育成をひもづけ、自動車強国を目指す。『2030 中国自動車強国への戦略』では戦略の実態を浮かび上がらせている。中国側キーパーソンがこの戦略に込めた思いを、インサイドの視点で大胆に描いており、読みごたえのある書物だ。

燃費から電費へ

 日本でも「グリーン成長戦略」が公表され、30年代半ばまでに新車を、ハイブリッド車、EV、燃料電池車を含む電動車両に全て移行させる計画である。欧米中の国家戦略に対抗すべく、国内産業の構造転換の実現と、持続的な繁栄を目指す。自動車産業の戦いは、企業間競争の枠を超え、国家競争へ変わっている。自国雇用を支え、国際競争力を生み出す強力な基幹産業はどの国も手放すわけにはいかないのである。

 自動車産業を理解すれば世界経済や政治のパワーバランスを俯瞰(ふかん)できる。『世界「新」経済戦争』は、電動車をめぐる世界の覇権争いを通して世界経済の未来を俯瞰する。自動車専門家の視点ではなく、ドイツ在住の作家の視座からの論考が新鮮だ。

 もの作りの競争力にも大きな変化が訪れる。基準は燃費から「電費」(電気1kWh当たりの走行距離)へ、各自動車メーカーの企業平均燃費から、自動車のライフサイクルを通じて二酸化炭素の排出量削減を図るLCA(ライフサイクルアセスメント)へと移行していくのであろう。=朝日新聞2021年2月6日掲載