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「少数者は語る」書評 「家」をめぐる独白で多彩な世界

評者: 温又柔 / 朝⽇新聞掲載:2021年02月20日
少数者は語る 台湾原住民女性文学の多元的視野 上 著者:楊 翠 出版社:草風館 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784883232048
発売⽇:
サイズ: 20cm/406p

少数者は語る 台湾原住民女性文学の多元的視野 下 著者:楊 翠 出版社:草風館 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784883232055
発売⽇:
サイズ: 20cm/381p

少数者は語る 台湾原住民女性文学の多元的視野(上・下) [著]楊翠

 たとえば、リカラッ・アウー。あるいは郝誉翔(ハオユシアン)に鍾文音(チョンウェンイン)。一九四五年以降に大陸から台湾に渡ってきた父親に連なる歴史と、太古より土地に根差す母親の系譜が交わる地点で、自己の在り方を思索する作家たちがいる。
 「彼女たちの作品は、ほとんどが族群とジェンダーの思考に強く結びついており、この点は、原住民男性作家の作品が主に族群のアジェンダに焦点を絞っているのとは異なり、また、漢人の女性作家の作品が主にジェンダーのアジェンダに焦点を絞っているのとも異なっていて、非常に特殊な作品世界を展開している」
 本書の著者もまた、「福佬系漢族とシラヤ族とパイワン族との混血であり、客家系漢族に嫁いだひとりの女性として」「自分自身をさらけだし、自分が話す位置を明らかにし」ながら、この二〇年の月日を「自分が生まれる前の時代に向かって、台湾史や女性史や家族史のさらなる原初に向かって、ゆっくりと進んできた」台湾女性史及び台湾女性文学の研究者だ。彼女の関心は一貫して「女性作家は『家』をどう考え、『家』をどう描き、家を出る/家に帰る道をどのように展開しているかということ」にある。
 それまで、原住民女性の作品や作家が「認知され理解されること」は、原住民男性作家やその著作と比べても極めて少なかった。リイキン・ユマや先述のアウーらが登場した九〇年代以降、さまざまなジャンルで花開いたにもかかわらずだ。
 「補いたかったのは、まさに台湾学術史におけるこの欠落した部分であった」
 そのふくよかな成果である本書は、著者自身の「生命の課題と思索」の軌跡でもあり、彼女が「家へ帰る道」とも重なる。
 本書を契機に、「少数者」が語る多彩な物語をもっと知りたくなったら、同じく草風館が刊行する台湾原住民文学選のシリーズが頼もしい。
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ヤン・ツイ 1962年、台湾台中市生まれ。東華大華文文学系教授。国立台湾大歴史学研究所博士。