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「世界を動かす変革の力」他1冊 「誰も取り残さない」響く声長く 朝日新聞書評から

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2021年02月27日
世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ 著者:アリシア・ガーザ 出版社:明石書店 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784750351155
発売⽇: 2021/01/08
サイズ: 19cm/356p

3人の女性たちによって始まった運動はいかにして生まれ、人種や国境を超え、成長してきたのか。ブラック・ライブズ・マター共同代表が語る、はじめての本。組織化して変革を遂げるた…

歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター 著者:藤田 正 出版社:シンコーミュージック・エンタテイメント ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784401649662
発売⽇: 2020/11/26
サイズ: 21cm/263p

ビリー・ホリデイ、ジェイムズ・ブラウン、スパイク・リー、ビヨンセ…。誰にでも体験できる歌や映像という文化メディアを通じて、巨大な流れとなったブラック・ライヴズ・マター運動…

世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ [著]アリシア・ガーザ/歌と映像で読み解く ブラック・ライヴズ・マター [著]藤田正

 昨年5月の米ミネアポリス市警官によるジョージ・フロイド圧殺事件を機に全米に広まった「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)運動。コロナ禍の夏に一気に高揚したこの運動には、しかし、ふたつの偏見がつきまとった。「スラムの貧しい黒人たち」の「暴動」だという先入観である。
 だがBLMは急ごしらえの動きではないし、運動も「暴動」を煽(あお)ったことはない。始まりは2013年、フロリダでトレイボン・マーティン少年に「自警団」を名乗って嫌疑をかけ、射殺した白人の男に無罪評決が出たこと。この夜、怒りと混乱の中でのちに#BlackLivesMatterのハッシュタグで拡散される一文をSNSに投じたのが『世界を動かす変革の力』の著者だった。
 大学卒業後、種々の社会運動で組織作りを学んだ彼女は、白人主導下での限界を感じながら、友人ふたりと語らって14年に政治組織「ブラック・ライブズ・マター」を公式に旗揚げしたのである。
 本書はそんな社会運動家としての自分史をふくむ活動の記録。81年生まれでカリフォルニア州の「裕福な白人コミュニティ」で10代を過ごした利発な黒人少女は、校内で少数派の「黒人であることを常に意識」しながら成長する。
 黒人といえば能力が劣り、たやすく犯罪に走ると見なす「構造的差別」が逆に白人には自動的に有利に働くしくみは、同じく男女間にも階級間にも働く。その上に成り立つ「秩序」を保守派はもてはやし、リベラル派は罪悪感と人助け願望の「救世主コンプレックス」から被害者探しの競争に走ろうとする。しかし問題はどっちがより被害者かなんてことじゃない、と彼女はいう。「居場所がない」と感じる人が「誰一人取り残されない」ことが大事なのだと。
 BLMをキング牧師やマルコムXのような「突出したリーダー」がなくても永続可能な「分散型リーダーシップ」の運動とする認識も、これからの世代のための組織論として有益だろう。
 他方、アメリカ黒人の「居場所のなさ」を芸能の域に昇華したのが音楽。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』は、かつて「ミュージック・マガジン」や「Bad News」で気を吐いた音楽評論家ひさびさの書き下ろしで「奇妙な果実」のビリー・ホリデイからビヨンセまでプロテスト・ソングの系譜をたどる。
 思い入れ一途の筆致に愛嬌(あいきょう)と鋭い直観が交差する。卑語や猥(わい)語、性差別、白人への憎悪を連発するヒップホップが「実は、白人層の、対岸の火事を見物するような愉しみ、嘲笑(ちょうしょう)の対象」として白人聴衆にもてはやされたという指摘はまさにこの人ならではだ。
    ◇
Alicia Garza 米オークランド在住。全米家事労働者同盟の戦略担当・共闘部長なども務める▽ふじた・ただし 1953年生まれ。音楽評論家、音楽プロデューサー。93年には「MALCOLM X展」を企画監修。