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東山彰良のTurn! Turn! Turn! #26 桜木紫乃姐さんと福岡歩いて新発見

文:東山彰良 写真:河合真人

 先月は、北九州市は小倉北区にある九州最後のストリップ劇場、「A級小倉」での観賞記を書かせてもらった。

 その折に、ストリップについて多少なりとも予習をしておこうと思い立ち、文壇一のストリップ通、桜木紫乃さんに連絡を取った。こんなバカなことで多忙を極める直木賞作家に連絡をしていいのだろうか、とはまったく思わなかった。なんといっても紫乃姐(ねえ)さんはバカなことが大好きだし、バカなやつらに慰めを見出し、愛すべきバカどもの喜怒哀楽を描きつづけているのだ。ストリップの見方を教えてくれという私のわがままなど、バカのうちにも入らない。私は姐さんの言いつけをよく守り、勇躍して小倉へ乗り込んだわけだが、そのへんの顚末(てんまつ)は前回書いた。

 が、話はこれで終わらなかった。メールでやりとりをするうちに、なんと桜木さんが福岡へ来ることになったのである!

旦過市場の中にある角打ちでのどを潤す桜木紫乃さん(左)と東山彰良さん=北九州市小倉北区、河合真人撮影

 桜木さんは全国各地のストリップ劇場を見てきただけでなく、伝説的なストリッパーたちとも親交がある。しかし北海道在住なので、A級小倉劇場へは一度も訪れたことがない。そんなことがあっていいはずがない。ストリップファンがA級小倉劇場を訪れないのは、たとえるなら『鬼滅の刃』ファンが竈門(かまど)神社を訪れないようなものだ(いや、それほどでもないか)。

 ここはひとつ、この東山がひと肌脱がねばなるまい。どこかの出版社をたらしこんで、桜木さんを福岡へ連れてきてもらう。私が狙いをつけたのは集英社だった。なぜなら桜木さんは集英社から『いつか あなたを わすれても』という絵本を出したばかりだし、それに鬼滅バブルで湧いている集英社なら、たぶらかしやすかろうと踏んだからである。

 その読みは見事的中し、とんとん拍子に話がまとまって、ついに4月のなかばに桜木さんの来福が実現したのだった。

 瓢簞(ひょうたん)から駒とはこのことだが、いくら集英社だって、ただ作家にストリップ見物をさせるためだけに福岡くんだりまで連れてこられるほど豪気ではない。コロナとの兼ね合いもある。会社から出張費をふんだくるためには、万全の感染対策および仕事という大義名分が必要となる。

 そこで関係者各位の調整を経て、福岡市は東区にあるブックスキューブリックにお願いし、桜木さんと私のトークイベントをセッティングしてもらった。ふだんなら70人ほど収容できるというブックスキューブリック箱崎店のカフェ&ギャラリーを、感染対策のために半数ほどの座席を間引く。言うまでもなく事前の手指消毒、マスクの着用も徹底した。さあ、これで天下御免の出張扱いである。

桜木紫乃さん(左)と東山彰良さんのトークイベント「ブンガクは北から南から」=2021年4月18日午後6時26分、福岡市東区箱崎、河合真人撮影

 正直、なにを話したかよく憶(おぼ)えていない。ひさしぶりに人前に出たせいですっかり舞い上がり、たいした話もできなかった。しかし直木賞作家がふたりでかかれば、たとえただ屁(へ)をこいているだけでも含蓄のある音がするはずだ。そう信じて、どうにか60分間を耐え抜いた。作品のなかで噓(うそ)をつくことについて、桜木さんが「カニカマ」のたとえを出されたのが印象的だった。カニカマはカニではないけど、使い方しだいでは料理が美味(うま)くなる。それと同じで、噓だって使いようによっては作品がよくなるのだという話には思わず首肯してしまった。

 翌日はこれまでの善行が報われたような大晴天で、とうとう念願叶(かな)って桜木さんといっしょにストリップを観(み)ることができた。

 当日出演したストリッパーのなかには紫乃姐さんも未見の際物がいて、この人の風変わりな芸には唸(うな)らされた。新聞紙面なので詳述は控えるが、どんな仕事でも骨身を惜しまずに精進を重ねていけば、やがて悟りを開けるのだと思わせる入魂の一芸であった。

 それにひきかえ、容貌(ようぼう)のみを恃(たの)んで努力を怠る者の舞いは観ていて味気なく、あくびが出てしようがなかった。仰ぎて天に愧(は)じず(行いが清く正しく、天を仰いで恥じることなく、人に対しても恥じることがないという意)などと言うが、おのれの芸に自信のあるストリッパーは真っ直(す)ぐに目を合わせてくるのに対し、そうじゃないストリッパーはなんとなく伏し目がちで、立ち居ふる舞いもどことなくもったいぶっているように見えた。

 桜木さんの2泊3日の福岡滞在はこのようにして、あっという間に過ぎていった。じつはほかにもパンチパーマ発祥の地として北九州の理髪店を見物したりしたのだが、そのへんは後日、紫乃姐さんが書くことになっている

ステージを見終わった後、魚町銀天街の長いアーケードを抜け、旦過市場を目指した=北九州市小倉北区、河合真人撮影

 今回、私は学んだ。

 コロナで外出がままならない昨今、私だけがのこのこ出かけていくのではなく、面白そうな人をそそのかして福岡へ誘い込むのもありなんじゃないか。そうすれば福岡の街を違った視点から見ることができるし、新しい発見もある。なにより私も旅人のお相伴にあずかって、福岡に居ながらにして旅気分を味わうことができる。愉快なエッセーさえ書ければ誰も文句は言わないので、経費だってこれまでどおり使える。コロナさえ収まれば、ゲストといっしょに新天地を目指すのも夢じゃない。

 うん、この手は使えるな。=朝日新聞2021年5月29日掲載