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【対談】池澤夏樹さん×東京女子大学・茂里一紘学長 小説「また会う日まで」で描いた、独立不覊の女性の姿

池澤夏樹さん(左)、東京女子大学・茂里一紘学長

主人公の妻が学んだ草創期の東京女子大学

橋谷:朝日新聞で連載中の「また会う日まで」の主人公・秋吉利雄さんは、池澤さんの祖母の兄、つまり大伯父にあたる方だそうですね。
池澤:秋吉家とは縁が深く、利雄さんに関する膨大な資料を僕が受け取りました。史実をなるべく忠実に尊重しつつ、人物の内面の声を推察し創作する、といった形で執筆しています。
橋谷:「天文学者」「海軍軍人」「キリスト教徒」という三つの顔を持つ利雄さんを主人公にした理由は何ですか。
池澤:軍人であることとクリスチャンであることは普通、相反することです。その矛盾を彼がどう克服したのか、内面の葛藤を追いかけてみたいと思いました。また、キリスト教と天文学という、普遍的な真理や原理を追求するものとともに生きていく姿勢にも共感するところがありました。

朝日新聞朝刊で小説「また会う日まで」を連載中の作家・池澤夏樹さん

茂里:利雄さんの妻・ヨ子(よね)さんは、東京女子大学の第4期生ですよね。小説の中で「東京女子大学は私を親や家から独立した人間に育ててくれました」というヨ子さんの台詞がありましたが、本学はまさに、教育を通して自立した女性を育む目的で生まれました。
橋谷:私の周りの同窓生もそういう女性が多いです。ギラギラした強さではなく、何かあった時に芯の強さを発揮するような人が多い気がします。
茂里:胆力と才覚があり、しなやかで自由。それが本学の気風なんでしょうね。学生の個性は様々ですが、キャンパスに身を置くうちに、何か影響されるのかもしれません。
池澤:この美しいキャンパスに、キリスト教の精神がたゆたっているのでしょう。信仰の有無にかかわらず、自分の身を律して生きる姿勢に感化されるのではないでしょうか。
茂里:小説の連載開始後、卒業生から特に大きな反響があったのは、聖句の一節“QUAECUNQUE SUNT VERA”(すべて真実なこと)が登場したときです。学問の場に対する希望を示す標語として本館正面の壁に刻まれているこのラテン語の一節は、卒業生の心にも残っているのだと実感しました。
池澤:最近新たに発見したのですが、利雄さんが従事していた海図の製作を担う水路部の仕事を、東京女子大学の英文科の学生が手伝っていたそうです。縁の深さを感じますね。

東京女子大学・茂里一紘学長

リベラル・アーツ教育がさらに重視される時代に

橋谷:東京女子大学の学びの特色は、やはりリベラル・アーツ教育ですよね。
茂里:初代学長の新渡戸稲造、安井てつ(のちの第2代学長)が創立した当時から、良妻賢母を育てる女学校とは一線を画す、キリスト教精神に基づくリベラル・アーツ教育を掲げてきました。石原謙、片山哲、森戸辰男、矢内原忠雄ら錚々たる若手研究者が、本学に教えに来ていました。

初代学長の新渡戸稲造は、「犠牲と奉仕」の精神の尊さなども学生に教えた

池澤:そうですか、当時の授業を受けてみたいものですね。リベラル・アーツというのは「知的な基礎体力」のようなものだと思います。これはすぐに役立つ上辺の知識ではなく、もっと深いものです。自分の進む道を見つけるためには、ものを広く深く知っていなくてはいけませんからね。
茂里:いまは予測不能で変化の激しい時代です。専門分野や語学力だけでなく、幅広い教養に基づく視野と思考力を身につけることが、これからますます重要となります。
橋谷:若いうちはつい“最短距離”を求めがちですが、寄り道して得ることや、一見無駄に思える学びにも価値があることに気づいてほしいですね。

対談のコーディネーターをつとめた、東京女子大学の卒業生でキャスターの橋谷能理子さん

女性の力が発揮されない世の中ではもったいない

橋谷:次の100年に向けて、東京女子大学の今後をどうお考えですか。
茂里:本学は、北米のキリスト教諸教派の援助によって生まれた大学です。戦中戦後と大変な時期はありましたが、無事に100年を迎えられた。そういう我々がいますべきことは、恩返しならぬ「恩送り」だと思っています。昨今ではマララ・ユスフザイさんの演説が象徴的でしたが、いまなおアジアの女子教育は理解と支援を必要としています。そうした人々に貢献できる大学でありたいと思います。
池澤:若い世代の皆さんには、自分たちの力を世に出さなければもったいない、ということを社会に納得させてほしい。まだまだ女性のポジションが低いこの社会を変えてほしい。そのための力を、ここ東京女子大学でしっかり身につけてほしいと願っています。

(左から)東京女子大学・茂里一紘学長、池澤夏樹さん、橋谷能理子さん

※本企画は、感染対策に十分留意し実施しました。写真は一時的にマスクを外して撮影したものです。