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中島みゆきさんの「ファイト!」に芦花公園さんは創作の極意を感じた

「ファイト!」などを収めた2枚組セレクトアルバム『ここにいるよ』(通常版、ヤマハミュージックコミュニケーションズ)

 普段はDiplo(世界でもっとも有名なDJのひとり)や、ひがしやしき(オタクラップ)を聴いている。単に楽しいからだ。あまり辛い思いもしたことがないし、したとして音楽を聴いて勇気づけられるタイプでもないのでそういう曲もない。

 だから今回は、私に「優れた創作とはこういうものである」と教えてくれたアーティスト、中島みゆきの話がしたい。
 中島みゆきの歌を初めて耳にしたのは「地上の星」だった。テレビ番組のテーマソングだった。その時は覚えやすい歌詞と独特のパワフルな声を真似したりして同級生とはしゃいでいたくらいで、特に何も思わなかった。そもそも世代の違う人、という印象で、その頃はASIAN KUNG-FU GENERATION(今も活躍するバンド)とかが流行っていたし、私もそういう流行りの音楽を好んで聴いていた。

 中島みゆきのすごさを実感したのは高校生活も終わりを迎える頃だ。
 あるとき、ネット動画をぼんやりと観ていたら、「ファイト!」が流れてきた。
かの有名な「ファイト! 戦う君の歌を~」というサビの部分は聴いたことがあったものの、きちんと最初から聴くのは初めてだった。

 あたし中卒やからね仕事をもらわれへんのやと書いた
 女の子の手紙の文字はとがりながらふるえている

 びっくりした。
 「中卒」というあまりにも強い印象の言葉に、突然何? と思った。
 私の知っているどんな歌詞とも違う、生々しい言葉だった。
 そのあとも注意深く耳を傾けていると、衝撃的なリリックが続々登場する。
 「ただ怖くて逃げました 私の敵は私です」「出てくならお前の身内も住めんようにしちゃるって言われてさ」「あたし男に生まれればよかったわ」
 私は茫然としたままそれを聞き、そのまま最初に戻ってリピートした。
 これは一体どういう歌なのか。
 何度も聞いて分かったことだが、この歌詞には六人の人生が、生の言葉を使って詰められている。
 具体的に書くと、

  1. 学歴によって差別され悔しい思いをしている少女
  2. 子供と言う理由で軽んじられ、暴力を受けている少年
  3. 目の前で子供が階段から突き飛ばされたのに、何もできず逃げてしまった女性
  4. 勝負に挑んで負けてしまった人
  5. 上京しようとするも、地元住民の嫌がらせにあい断念した人
  6. 暴行された女性

 併せて中島みゆきのプロフィールも読んでみた。
 中島みゆきは祖父が市議会議長も務めた実業家、父が産婦人科医院の院長という家庭に生まれている。彼女も勿論日本を代表する歌手となるまでに様々な苦労もあったことだろうが、端的に受ける印象は「お嬢様」である。歌手としての経歴を見ても、若いうちから才能が認められていて、容姿も綺麗だ。

 つまり、「ファイト!」に書かれている人生は、どれも中島みゆきのものではない。
 一番最初に出てくる少女の歌詞で分かるが、どうもこれらは、ラジオ番組で、彼女宛に送られてきたファンレターに書いてあったメッセージに改編を加えたものであるらしい。
 もしこの歌が六人の人生と、サビの「ファイト!」だけだったら、「ファンレターの内容を歌詞に使った」ということもあり、ああ、人は経験していないことは書けないよね、と思っていただろうし、中島みゆきのことも「曲と声は好きな歌手」と評価するに留まっただろうと思う。

 でも、「ファイト!」には最後のサビ前にもう一つ、このような人々を小魚に喩えた歌詞が挿入されている。
 この一節で、私は、この六人の人生は他人の体験談ではなく、私たちの目の前にある生々しい現実を描いた作品であると認識させられた。

 中島みゆきは私に、全く経験したことがない事柄でも、生々しく描き、まるで実際体験しているかのように心を揺さぶることができるのだ、と教えてくれた。
 このエッセイを書くにあたって散々引用しておいてなんだが(しかもあまりにも有名な曲なのでほとんどの人は知っているに違いないが)、小魚に喩えた歌詞に関しては実際に自分の耳で聴いて欲しいので引用はしない。
 六人の人生を単なる体験談で終わらせず、作品として昇華させた素晴らしい一節である。