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女性史学賞に北村紗衣さん『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』

記事:じんぶん堂企画室

女性史学賞を受賞した武蔵大学人文学部准教授の北村紗衣さん
女性史学賞を受賞した武蔵大学人文学部准教授の北村紗衣さん

 受賞作は『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち―近世の観劇と読書―』(白水社)。北村さんは16世紀から18世紀に刊行されたシェイクスピア刊本800冊以上を調査。所有者のサインや蔵書票、本への書き込みなどの痕跡から、女性ファンたちがどのようにシェイクスピア作品を受容したり楽しんだりしたかを分析しました。

 17世紀イングランドでは、貴族や貧しい果物売りまで幅広い階層の女性たちが、文字が読めなくても楽しめる娯楽として観劇していました。伯爵家の娘が船を出して観劇に行った記録などの例を北村さんは挙げています。17世紀後半になると、女性作家たちがシェイクスピア演劇の批評や戯曲を書き、シェイクスピアの才能を称賛していたと北村さんは読み解きました。当時の女性たちが「シェイクスピアの機知と雄弁は何にでも及びます」と語ったり、シェイクスピア作品の登場人物について論じたりする書簡が残っています。

女性史学賞の授賞式で講演した武蔵大学人文学部准教授の北村紗衣さん
女性史学賞の授賞式で講演した武蔵大学人文学部准教授の北村紗衣さん

 18世紀になると、シェイクスピアの本は家族を通じて、多数の女性の手に渡るようになります。ある女性小説家は、家宝として本を保存したい気持ちを本に書き込んでいます。こういった女性読者の存在が「正典化のプロセス」に貢献したと、論じました。北村さんは調査で、ある女性が初期のシェイクスピア作品集の編集に関わっていたことが分かる手紙を発見しました。

 また、1769年の「シェイクスピア・ジュビリー祭」には、多くの女性客が参加しました。イベントのグッズを欲しがる手紙から、北村さんは「現代人にもおなじみのファン心理がうかがえる」と見ています。また、『マクベス』の魔女のコスプレをした女性たちも参加し、イベントを楽しむ女性たちが「正典化の原動力のひとつであったことを見逃してはならない」と北村さんは考えています。

女性史学賞を受賞した武蔵大学人文学部准教授の北村紗衣さん(右)と、賞を主催する奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センター長の高岡尚子さん
女性史学賞を受賞した武蔵大学人文学部准教授の北村紗衣さん(右)と、賞を主催する奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センター長の高岡尚子さん

 北村さんは「シェイクスピア作品の女性ファンたちは、俳優に夢中になったり、友だち同士で観劇会をしたりしていました。そういった活動は、ジャニーズや宝塚、2.5次元の女性ファンとも共通点があります。そういった現代のファンたちにもこの本を読んで欲しいです」と話しました。

 授賞式では、選考委員会を代表し東京大学名誉教授の姫岡とし子さんが「イギリスやニュージーランドなど各地の図書館に所蔵されているシェイクスピア刊本を地道に調査するという膨大な作業を貫徹したことを高く評価しています。本の所蔵や本への書き込みなどから、シェイクスピアと女性の関係を掘り起こしました」と講評しました。また「読書や芝居見物の楽しみなどの視点からのアプローチも興味深いです」と述べました。

女性史学賞の授賞式で講評する東京大学名誉教授の姫岡とし子さん
女性史学賞の授賞式で講評する東京大学名誉教授の姫岡とし子さん

 女性史学賞は、女性史研究をリードした歴史学者・脇田晴子さんを中心に創設されました。脇田さんが2016年に亡くなった後は、運営を引き継いだ奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センターが主催しています。北村さんは「賞を創設した脇田先生の本を学生時代に読んでいたので、ゆかりの賞をいただき大変うれしいです」と喜びを語りました。

 北村さんは、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書肆侃侃房)では、映画『ファイト・クラブ』や『アナと雪の女王』を「フェミニスト」の視点で読み解くなど、幅広く批評活動を続けています。「17世紀から続くシェイクスピアはもちろん、劇場以外で上演されるものも含めて様々なライブエンターテイメントについても研究を続けていきたいです」と抱負を話しました。(文・写真 岡見理沙)

北村さんのインタビュー「フェミニスト批評は楽しい」

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