14歳の誕生日、この10月17日に作家デビューした。
小学4年、5年、6年と3年連続で小学館の「12歳の文学賞」で大賞を受賞し、審査員の作家あさのあつこさんから「鳥肌が立つような才能」と激賞された。小4、小6での受賞作を大幅に改稿し、書き下ろし3編を加えた5編の連作短編集がデビュー作だ。当初、年末か年明けに出版の予定だったが、誕生日に合わせようと早まった。やはり審査員だった西原理恵子さんが、大急ぎで表紙の絵を間に合わせてくれた。
主人公の田中花実は小学6年生。貧乏な母子家庭だが、底抜けに明るい肉体労働者の母親と大笑い、大食いの毎日を送っている。その日常に差し込んでくる影を、花実は正面から受け止めながら真剣に考え、一生懸命に行動する。やがて見えてくる光。
がさつだけれども一本気な母親は、学校の帰り道に見た工事現場で働く女の人がモデル。母親思いでやさしい花実は、女の子としての理想の姿。「ふだん見たり聞いたりしていることが頭の中でつながって、キャラクターの設定をします。みんなが勝手に頭の中で動き出すとき、ストーリーが浮かぶんです。小説を書くのが楽しくてしょうがない」と言う。
『さよなら、田中さん』は、「希望が感じられる小説にしたいと思って書いた」という言葉通りのできに仕上がった。なぜ「希望」なのか。祖父に教わった「どんなときも道はある。絶望的な状況でも光はある」という言葉が大好きだからだ。
もうひとつ、祖父から聞いた言葉がある。「死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え」。今回の作品のクライマックスで出てくる。
好きな作家は、志賀直哉と吉村昭。「志賀直哉さんはリズムがすごくいい。吉村昭さんは文章が美しい」
幼いころは漫画家志望で、いつか漫画も描いてみたいと思っている。本の世界で、新しい才能による「二刀流」を見ることができるかもしれない。
(文・西秀治 写真・飯塚悟)=朝日新聞2017年10月29日掲載
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