『九十歳。何がめでたい』が大ブレークした佐藤愛子さん(94)。過去のエッセーの再編集や復刊が相次ぐが、これを機に小説にも出会い直してほしい。『加納大尉夫人 オンバコのトク』(めるくまーる、1296円)はお気に入りの2作をあわせた。
「加納大尉夫人」は「文学界」(1964年8月号)掲載。戦時下の西宮、商家の末娘が眉目(びもく)秀麗な海軍士官を紹介される。丸刈りの頭に「タコみたいやわ」とずけずけ言う主人公は佐藤さんが描くキャラクターらしい。「オンバコのトク」は「小説新潮」(81年3月号)初出。本作を題にした単行本はなく、埋もれていたのを旧知の編集者が思い出した。「当時は完全黙殺されて、色川武大さんだけがほめてくださった」。旅芸人トクの極貧の暮らしは過酷だが、あっけらかんとした読後感がある。
「自作は読み返さない。吐き出してしまったものは見たくもない」と自作に厳しい佐藤さんだが、「この2作だけは気に入っています」。小説かエッセーか。「読者のお好きなように」(中村真理子)=朝日新聞2018年7月7日掲載
編集部一押し!
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 空木春宵さん「感傷ファンタスマゴリィ」インタビュー 社会の痛みに向き合った幻想SF 朝宮運河
-
- 図鑑の中の小宇宙 「すごすぎる絵画の図鑑」 フェルメールの名画の黄色の正体は…… 岩本恵美
-
- 鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第13回) 「女性は存在しない」!? メイル・ゲイズ(男性の眼差し)を超えて 鴻巣友季子
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「陰陽師0」奈緒さんインタビュー 平安時代の女王役「負の感情を『陽』に。自分の道は変えられる」 根津香菜子
- マンガ今昔物語 パッとしないが、実はすごいヤツ。令和の会社員像は 鍋倉夫「路傍のフジイ」(第143回) 伊藤和弘
- 本屋は生きている でこぼこ書店(埼玉) 本を介して人が集まり、学ぶ場所。元バスケ青年が始めた小さな挑戦 朴順梨
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社