恐竜はわれわれの想像力を刺激してやまない。なにしろ、あんなにデカイやつがかつては闊歩(かっぽ)していたのに、忽然(こつぜん)と姿を消したのだから。おまけに、小さくて頭のいいやつもいたとか、じつは恐竜は今も身近にいるなどと聞かされたらなおさらだ。
恐竜人気がいちばん高い国は、もしかしたら日本かもしれない。なぜなら、毎年のように恐竜展が開かれているし、一般向けの恐竜本もたくさん出版されている。かつては翻訳書が多かったが、昨今は日本人研究者やサイエンスライターの著書も増えた。そのおかげもあって、日本こそ、恐竜リテラシー(知識)がいちばん高い国となっている可能性がある。
ここ何十年か、恐竜研究はめざましい発展を遂げている。鳥は恐竜と同類であり、恐竜のなかには羽毛をもっていたものもいたというのは、恐竜好きにとっては今や常識である。恐竜展の展示や関連本の内容もどんどん更新されている。
旺盛な知識欲
ではなぜ、日本人は恐竜が好きなのか。その答えの一端は、恐竜学者の真鍋真さんと恐竜好きの評論家山田五郎さんの対談『大人のための恐竜教室』に見つかる。お二人のように、ゴジラや怪獣ドラマを見て育った、いうなれば怪獣世代は、恐竜との親和性が高かったのではないか。
アメリカの新聞連載漫画家ヒラリー・プライスさんが描いた「人生における恐竜知識の変遷」という一コマ漫画(トリケラトプスのシルエットを背景にしたグラフ)がある。そこでは人の恐竜知識には三つのピークがあるとされている。6歳ごろが最高で、(恐竜好きの子の親になる)30歳が第二のピーク、(恐竜好きの孫をもつ)68歳が第三のピークだというのだ。
このジョークに便乗して、日本では5、6歳で怪獣を窓口に恐竜の洗礼を受けた怪獣世代が親となり、孫をもつようになるなかで恐竜ブームを支えてきたという仮説はどうだろう。昨今の恐竜ブームは、大人となったその世代の恐竜知識欲に応える企画なのではないのか。前述の対談を読むとそんな気がする。この本を読めば、最新の恐竜知識をざくっとフォローできる。
ハヤブサの目
それだけでは物足りない向きには、サイエンスライターにしてイラストレーター北村雄一さんの『大人の恐竜図鑑』がお勧めだ。「大型図鑑」並みのてんこ盛り情報が新書で読める国がほかにあるだろうか。
恐竜に関心を持つ層は、恐竜学者にも興味を抱く。前出の真鍋さんに次ぐ世代のエースが小林快次さんだ。同氏の『ぼくは恐竜探険家!』を読むと、恐竜学者のなり方、作られ方がよくわかる。目下最新最大の恐竜関連ニュースは、北海道のむかわ町における「むかわ竜」全身骨格の発掘だろう。この発掘の主導者が小林さんである。発見した恐竜化石の多さから、研究者仲間から「ハヤブサの目」をもつ男と呼ばれている。
とはいえ、新種の恐竜化石が見つかることはめったにない。名前がついている恐竜は1千種ほどにすぎないというではないか。しかし、化石以外にも恐竜の生態を探る方法はある。
『恐竜探偵 足跡を追う』(文芸春秋・2376円)の著者アンソニー・J・マーティンさんは生痕学者である。生痕学とは、足跡、巣穴跡、卵の殻、骨に残った咬(か)み跡から、それを残した生物の生態に迫る研究である。恐竜に関しては化石よりも足跡のほうがたくさん見つかっているのだ。著者は、そうした痕跡から巨大恐竜の交尾のポーズを推定できはしないか、放尿の跡が残っていはしないかと、大真面目で想像を膨らませる。
恐竜は、われわれ素人のみならず、専門家の想像力も刺激してやまない存在なのだ。=朝日新聞2018年11月3日掲載