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『復興から自立への「ものづくり」』書評 東北の伝統新た 暮らしに彩り

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月11日
復興から自立への「ものづくり」 福島のおかあさんが作ったくまのぬいぐるみはなぜパリで絶賛されたのか 著者:飛田 恵美子 出版社:小学館 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784093886765
発売⽇: 2019/03/01
サイズ: 19cm/271p

復興から自立への「ものづくり」 [著]飛田恵美子

 海外講演の先々でその地の手作りのものを好んで探す私は、東北の被災地に出かけた頃も手作りのものが気になると共に、人々の変わりゆく意識やものづくりに携わる人たちの活躍に注目していた。
 東日本大震災のあと、東北のあちこちでものづくりのプロジェクトが立ち上がった。著者は80を超える現場を取材。本書では、そのうち21のプロジェクトを選んで紹介している。こうして本としてまとめられると復興の大きなエネルギーを感じずにはいられない。
 手縫いで靴下からつくるソックモンキー「おのくん」は愛らしく、大人気で全国に広まっている。
 針と糸、布だけでできる刺し子。福島県浪江町の伝統の大堀相馬焼のグループは陶片でネックレスをつくり、伝統を新しい形で伝えてゆこうとしている。白い鹿の角に赤などの漁網の補修糸を重ねたアクセサリーのセンスは高く美しい。地域性を感じさせるものは、そのまちの風景やつくり手を、身につけるたび思い出させるものだ。
 福島原発事故の後、女子の感性を発信しようとはじめた、会津木綿をアクリルに閉じ込めた色形の可愛いピアス。眠っていた着物地をストールなどに生まれ変わらせる手仕事。このように装飾アクセサリーをつくっているグループが多いのは、手づくりのものを身につける心地よさを知る女性たちだからだろう。私は、仕事で訪れたベルリンでは奇抜なリングやネックレス、オスロでは帽子やマフラーなどそこで生活する人の美意識を感じ取りながら美しいものを見つけて楽しんできた。
 復興の希望から生まれた温もりのある優しい手作り活動によって暮らしの中につながりができ、暮らしに彩りと癒やしをもたらしている。東北の生活の中からうまれているものづくりの活動が、これから東北の新しい芸術文化づくりにつながってゆくことを期待したい。
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 ひだ・えみこ 1984年生まれ。編集者・ライター。「地域」「自然」「生き方・働き方」をテーマに取材、執筆。